ジェフの佐藤寿人 第7節 vs琉球 ○1-0

ジェフの佐藤寿人 第7節 vs琉球 ○1-0

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18年。

長かった。
もう、再びジェフのユニを纏った、寿人のゴールを観ることは無いと考えていた。
数多くのゴールを寿人は奪ってきたけれども、その多くを観る事は無かった。
「なんでジェフの為のゴールじゃないんだ」と悔しくなってしまうからだ。

頭では分かってはいる。
寿人がトップに上がった当時、ジェフには龍洙という不動のエースと、そのエースを輝かせる、献身的な相棒・大柴と言う素晴らしい2トップが居た。加えて、林丈統という稀代のスーパーサブも居た。ジェフに留まって居ては、寿人と言う才能は、きっと埋もれてしまっただろう。

が、1999年のJ1残留争いの頃、当時ユースに所属していた、阿部、勇人、寿人らは、間違いなくジェフの未来。ジェフの希望そのものだった。J2に落ちてしまったならば、ジェフは草刈場になってしまう。その危機を、武藤のループで乗り越えて、ようやくトップへと上がった未来のエース。

ボールを、ゴールに流し込む事にかけては日本一。
トップに上がるずっと前から、別格の才能だった。

セレッソ、ベガルタ、サンフレッチェ、グランパス。
道は交わる事無く時間は過ぎても、彼がどうゴールを陥れるかは遠い記憶に叩き込まれている。

34分、ゴールが決まった瞬間。
倒れ込みながら姿は見えなくとも、間違いなく寿人のゴールだと分かった。
ようやく。ようやく、黄色いジェフのユニを纏った寿人をコールする事が出来るのかと思うと。
どうにも熱いものが込み上げそうになった。

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江尻体制3試合目、ジェフは首位の琉球をフクアリへ迎えた。
ここまで負け無しの琉球。
J3から昇格したばかりとは思えない、組織だった攻守を見せている。
ゴールへの道筋を、チームの全員が把握し、シンプルでスピーディーな迫力ある攻撃。
6試合で8得点という、驚異的なペースでゴールを量産するFW鈴木孝司を筆頭に、経験ある選手が要所に配置され、隙という隙が無いチーム。

対するジェフは、連戦ながら、前節からメンバーをほぼ踏襲。
ただ1人のメンバー変更が、1トップの寿人だった。

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寿人先発には、驚いたサポ仲間も多かった。
自分も、驚きはしたけれども、同時に江尻監督ならではの起用だなと思った。
確かに、流れを変える駒として、前節のようにベンチに置く事も、一つの選択肢だろう。
が、寿人は、タケ(林丈統)と違って、スーパーサブよりも、先発でこそ生きるタイプだ。

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加えて、多くのゴールを奪い取ってきた武威は、琉球に対して大きな牽制になるだろう。
前節、福岡がそうだったように、一瞬でゴールを奪われる恐怖は、どうしても対戦相手に背後への不安を抱かせる。組織の熟成度では琉球にジェフは劣る。その差を埋めるための一手とも思えた。

試合が始まり、徐々にペースを握ったのはやはり琉球だった。
DAZN観戦よりも、生で見ると、より洗練されたサッカーをしている。
驚いたのは、プレーの正確さと、前にボールを運ぶ意識。

琉球は、選手の距離感が非常に良く、ボールをしっかりと繋ぐし、ほとんど戻すという事がない。
かなりプレッシャーがかかった場面でも、シンプルにボールをワンタッチ、ツータッチで捌いて、前へ前へとボールを運ぶ。チャンスと見るや、しっかりと人数をかけ、ジェフのDFラインを斜めのランで破ろうとするなど、やることがハッキリしている。

上手い。
本当に実のある強いチームだ。

苦しい立ち上がりだったが、ジェフはこの時間帯をしのぐ。
江尻体制の前の2試合もそうだったが、それまでの失点の多さから、まず試合の入りをセーフティにしようと言う意図が見える。失点をしない。相手の出方を見る。相手のやり方に慣れる。状況が見えてきたら、徐々に自分達の色を出していく。

じわりじわりと、3バックのラインを上げ、琉球のプレーエリアを限定し、ボールの回収回数を増やしていく。江尻監督が試合後に、「町田の前向きの矢印を横に」と話していた守備で、狙い通り減速をさせると、シンプルにボールを捌き、チームのタクトを振るう田坂を中心にジェフが攻勢に転じていった。

堀米のカットインからの強烈なシュート。
直前のファウルを取られたものの、寿人のバイシクルなどチャンスを作ると、
34分、とうとう均衡が破られた。

右サイドでボールを受けた新井が、マーカーを振りほどきながら中へボールを送り、
そこから寿人にシンプルに浮き球が送られると、頭で落して、
受けた堀米が4人をひきつけながら、左から攻め上がった下平に左足で繋ぐ。
下平は、ダイレクトで中に折り返すと、中央で待ち構えていた寿人が合わせてフィニッシュ!

手を大きく広げコーナーフラッグへと走り、握り締め、
エンブレムにキスをするセレブレーション。
浩平をはじめ、選手達が皆集まって、そのゴールを称え、鳴り止まない寿人のチャントと、
声にならない叫びが、フクアリを包んでいた。

待望の一発でフクアリの空気をモノにすると、前半はこのまま1-0で終えた。

後半、態勢を立て直した琉球。
再び試合展開は五分五分に。
ホーム側での寿人のゴールをサポーターは期待していたが、一向にジェフのターンは来ない。

すると、江尻監督は、60分には堀米に代えて茶島を投入。
さらに、65分には寿人に代えて、アランを投入。
この早目の交替が、大きく勝機を広げた。

茶島は、劣勢を覆すように、右からのドリブル突破で琉球の脅威になり、
アランは、屈強なフィジカルを活かしてボールをキープし、時には自らゴールに迫って、琉球の波状攻撃を防ぐ防波堤の役割を果たしてくれた。

また、右サイドで、猛烈なスプリントを見せて奮闘していたゲリアが足を攣って78分で交替。
江尻監督は、ここで為田を選択。
茶島がゲリアの右WBの位置に下がり、為田はシャドーに入る。
茶島がスムーズにWBをこなせるあたり、エスナイデル全監督の様々なトライが、江尻監督の選択肢の数を増やして、今のジェフに活かされていると感じる。

その代わった為田も、ホームでの勝利の為に必死のプレー。
鬼気迫る吶喊で相手に倒され、FKを獲得するなど、短い時間ながら効果的なプレーで貢献した。
琉球の組織的なプレーは最後まで崩れなかったものの、両軍共に最後は運動量が落ち、ジェフは時間を使いきって、タイムアップ。
苦しいゲームを耐え、フクアリで今季初勝利を挙げ、連勝を達成した。

その瞬間、増嶋が芝に座り込み、何度も芝を叩いて喜び、
ベンチでは寿人や江尻監督が輪を作って、苦しかったこの一戦の勝利を祝っていた。

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でんぐり、寿人の「ただいま」のトラメガ、俺達ジェフ、オブラディ、
メインスタンドでは江尻監督が手を伸ばして最前列のサポに応えている。
数試合前までの、あの重苦しい空気。
そのフラストレーションを吹き飛ばすように、皆が喜んでいた。
試合中の応援も含めて、久々に心地よいフクアリの空気だった。

この試合の勝利のため、錬度に劣るジェフは、しっかりと琉球対策をとっていた。
それが、江尻監督の話していた「町田の前向きの矢印を横に」する守備であり、失点せずに耐えられた事が、勝利の大きな分かれ目だった。前半、ヘディングでバーを叩かれたシーンと、後半、オフサイドの網にかけたものの、ゴールに流し込まれたシーンくらいだろうか。
被決定機といえるシーンは。

江尻監督就任前であれば、おそらく、琉球のシンプルで縦に早い攻撃の前に大量失点もあり得ただろう。相手の良さを消して、そして自分達の良いところを徐々に出していく。
江尻監督の懐の深さを垣間見たゲームになった。

そして、寿人の起用と、それに見事に応えて見せた寿人のゴールが勝利の決め手になった。

この日、ベンチにはアランとクレーベが控えていた。
対戦相手との相性、寿人の年齢、コンディションを考えれば、今後も寿人が先発で出続けるのではなく、アランやクレーベが先発となる試合も多いだろう。そしてもちろん、怪我で戦列を離れている船山も居る。

まだ数試合ではあるけれども、多彩な顔ぶれを使い分ける江尻監督の采配が面白い。
これから先、どんな起用を見せてくれるか楽しみにしたい。

連勝で順位は13位まで上がった。
試合が続き、次は日曜日の金沢戦。
この良い流れに乗って、自信をつけ、そして油断はせずに一つ一つ、勝利をもぎ取って欲しい。
ようやく、スタートが切れた。遅ればせながら、そんな心持ちだ。

そして、試合後、勝利に沸くジェフの様子を遠慮がちに見守っていた、
FC琉球、ジェフユース出身の和田凌選手が、ゴール裏に挨拶に来てくれた。
こうして、プロとしてフクアリに戻って来てくれた事が、寿人同様に嬉しくてならない。
この先のサッカー人生が素晴らしいものとなるよう、願わずにはいられない。

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