GAME REPORT

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11/5(土)・ナビスコ杯決勝・G大阪戦 2005年12月25日(日)21時11分51秒 deletemodify

サポーターの声には「音色」がある。
ガンバにはガンバの、ジェフにはジェフの。ジェフが好きで、この試合に懸ける想いがある。いつもそこに居るジェフサポだけが出せる「音色」がある。PK戦を前にして、夕日に照らされた黄金色のスタンドから、自然と「アメイジング・グレイス」が流れた。
120分間を戦い抜いた選手達に、サポーターが出来ること。ジェフサポは誰よりも、彼らの努力を知っている。苦しい時も、つらい時も、ただこのクラブを選手好きでいた。「お前達を信じているんだ」それを伝えたくて、声を振り絞った。

最後の力を振り絞ってゴールに立ち塞がる立石が、胸を張って堂々とゴール前に向かう選手達が。この上無く誇らしかった。絶叫。あと一人、巻が振り抜いたシュートがゴールに突き刺さった瞬間。歓喜と一緒に、涙が溢れて来た。
2005ヤマザキナビスコカップ決勝戦・ジェフユナイテッド市原・千葉vsガンバ大阪。初タイトルに懸けた、両チームの熱き想いがぶつかり合ったゲームは、正に死闘と呼ぶに相応しい意地と意地とがぶつかり合った、壮絶な一戦となった。


 

国立競技場、午前6時。
開門は10時だが、既に多くのサポーターが列を作り、決戦の時を今か今かと待っていた。早い者は、もう一週間も前から並び始めている。皆、この日に懸ける想いは強い。皆、緊張感と笑顔が入り混じったような顔だった。
スタメンは誰か、どんな試合展開になるか、応援はどうする?そんな話をしている間にも、千駄ヶ谷門には次々と黄色のサポーターが列を作っていく。10時前には門の前の広場はほぼ一杯になっていた。

開門と共にスタジアムに雪崩れ込む。
横断幕を貼り、気心の知れた仲間を集め、応援の準備に取り掛かる。コンコースには、ビッグフラッグが運び込まれ、優勝の瞬間を信じて紙テープの準備が進められた。
見回すと、思いもかけないような昔馴染みに出会う。10年以上の永きに渡って応援を続けていると、想いはあってもそれぞれの事情でスタジアムに来られなくなった仲間がいる。特にジェフのように残留戦線や毎年恒例のような選手の放出を繰り返す苦難の歴史を持つチームならば、常に応援し続ける事は難しい事だ。久々に出会う仲間との再会が心強い。彼らも居るなら、きっとこの試合に勝てる。そんな気持ちになった。

3時間もあったはずの時間があっという間に過ぎていく。
ファイナルを彩るオーロラビジョンの映像に胸が高ぶる。キックオフを30分前に控えて、国立競技場は綺麗に黄色と青の2色に分かれ、正に決勝戦らしい光景になった。大阪も必死だこのスタジアムの半分を埋めるとは。その情熱に深い敬意を覚えた。あの青いゴール裏には、俺たちと同じようにこの一勝を渇望する奴等が居る。なれば、俺らは唯勝つしかなかった。

選手紹介。お互いが、「いつもの」スタイルで選手たちを歓声に包む。
国立に響くガマちゃんの声にも想いがこもる。この人も、シャウター福原さんからバトンを受けて、寒々とした臨海のスタンドから、満員のフクアリ開幕までを見届けて来た人だ。一言一言に選手たちへの熱い想いがある。「存在自体が我々の“勇気”キャプテン、阿部勇樹!No.6!」、「阿部勇樹」コール、やはり一番大きな声援。そして「いま改めて実感すいています。貴方に会えて本当に良かった!監督、イビチャ・オシム!」大歓声、そして「千葉」コールがスタンドの半分を包む。さぁ、臨戦態勢だ。



一旦選手たちがピッチから消え、そして選手入場の時を向かえる。
澄み渡る国立の空に、ビッグフラッグが掲げられる。そして黄色・緑・赤の画用紙が、スタンドを埋めたジェフサポのタオマフやゲーフラが、まるで一枚の大きなフラッグのように掲げられた。この日だけのスーパー・ビッグフラッグだ。
そして、対するガンバのゴール裏も、青と黒のカードが見事なまでにゴール裏を縦じまに染め抜く。関東の国立でよくぞここまで。相手にとって不足なし。素晴らしい雰囲気だ。お互いが、お互いに、自分達のチームを信じている。さぁ、キックオフだ。


ジェフは巻のワントップに、羽生・ガビがトップ下に入る布陣。
ナビスコ男・ガビがどこまでやってくれるか。ハースの居ない分、巻がどれだけ潰れて起点となれるのか、3−6−1の布陣に勝負を懸けた。

ガンバは、二川が復帰。また、負傷の宮本もベンチ入り。ただ、そのワリを食ったか、水野同様にワールドユースで評価の高かった左のキーマン・家長がベンチにも居ない。代わりに、引退を表明した“ミスターガンバ”松波がベンチ入り。彼が投入された時の国立の空気を考えると・・・恐いベンチだ。
その他は、大黒+アラウージョ+フェルンジーニョの3トップといい、普段通りの布陣だ。リーグ戦は二連敗中とは言え、好調時のガンバを考えればリーグを席巻する攻撃力をどう封じるかが、ジェフの最初のテーマ。また今日のDF中央に入ったのはシジクレイ。高さの無い宮本より、高さ・強さを兼ね備えてカバーリングに専念しているぶん、ストッパーに居るより非常に厄介。
特に、巻がワントップの今日のジェフにおいては。空中戦の主導権は、まず得られまい。


そして試合は、予想通り序盤からゴールとゴールの間を激しく行き交う目まぐるしい展開となった。お互いのミスが極めて少なく、ゴールに向かう意思が明白。
波状攻撃を仕掛けるガンバを中盤の網に引っ掛けようとするジェフ。ところが、思った以上にガンバの動きが良い。この国立の空気がそうさせたか、ここ2試合のガンバじゃない、好調時のガンバのそれだ。
ジェフは、アラウージョに結城、大黒に大輔、フェルナンジーニョに阿部をマンマークにつけて、血液循環を止めようと図る。しかし、ジェフのやり方を分かっているガンバは、それを見越した上で攻撃を仕掛けてくる。狙い撃ちされたのが結城。ここのところアクセントになっていたドリブルを使ったオーバーラップに、ガンバの厳しいチェックが入る。
結城が奪って、持ち上がろうとした瞬間、足元を狙ってボールがかすめ取られる。結城が攻撃参加している事で、当然後ろの枚数は少ない。一気に攻め込まれる。フォローに中盤の選手が戻り、全体が後ろに下がってしまう。そうなると、ハースの居ないジェフは、巻へのフォローも薄くなって前半が孤立してしまう。速さと技術のあるガンバの攻撃は苛烈だ。松下のシュートは立石が何とか弾き、イリアンがアラウージョを水際で防ぐ。
やられっぱなし、と言うわけでは無いが明らかなガンバペースだ。やはり、強い。

さらに左からアラウージョが結城をかわして単騎突破を仕掛けてくる。1対1、ジェフは最後の砦・立石。動かない。コースを切られたアラウージョが立石の股間を狙うが、これを腿で押さえる立石。冷静だ。
奪ったボールは、一気に前線へと運ぶ。鋭いフィードから前線を、巻を目指して。跳ね返されてはDF陣も序盤から積極的にドリブルでボールを持って上がっていく。ありきたりの攻撃では、ガンバの網に引っかかってしまう。普段よりも更に「リスクチャレンジ」をしなくてはチャンスすら作れない。

ジェフのファーストチャンスは、左翼深くからゴール前へのアーリークロス。
勇人が体いっぱいに伸ばすが、届かない。ジェフらしい、2列目からの飛び出し。両チームが、激しく「らしさ」をぶつけ合う。時間が経つのが早い、口の中がやたらに乾く。一気にゴールとゴールの間を行き交う目まぐるしさ。そんなに飛ばして大丈夫なのか、この暑さ、この熱気。
思う間もなく、阿部の渾身のミドル砲が藤ヶ谷を強襲するしかし、正面。
あっという間の前半が終り、張り詰めた空気が国立を包む。互角、いや少しだけガンバが優勢か。最後のところでよくジェフは耐えた。もう少し時間が経てば、ガンバの足は止まるはず。ジェフを信じろと、強く自分に念じる。この緊張、そうだ3年前のヤマハか?いや、違う。あの時より落ち着いている。これまで積み上げて来たものへの自信が違うんだ。


後半。負傷の羽生に代えて工藤。
この15分間、監督はどんな檄を飛ばしたのだろうか。
ゲームはますます白熱していく。相変わらず攻め込むガンバ。たいしたスピード、攻撃力だ。あっという間に、陣地が変わって遠くなった立石の守るゴールへアラウージョが、大黒が抜け出していく。

それでも、やはり後半のジェフは違う。
中盤の網がその締め付けをキツくしていく。最前線の細かい連携から、ガビが抜け出して決定的なシュートを放つ。しかし藤ヶ谷がセーブする。ナビスコ男の渾身の一撃をセーブするとは。この集中力、相手のこの一戦に懸ける気迫がひしひしと伝わってくる。
ほどなく、今度は阿部がゴール前でFK。黄色いスタンドからは、圧倒的な「阿部勇樹」コール。ここまでの音圧、自分は97年のW杯予選でしか聞いた事が無い。それが、ジェフのコールとして聞ける喜び。この上など無い。阿部のFKは力んだのか、壁に当たった。だが、ジェフサポならば思うはずだ「阿部が蹴ってダメなら仕方が無い」と。頼れる主将だ。こいつの右足に何度と無く助けられてきた。
キックを外した後も、「阿部勇樹」コール。だから頼んだぞ、阿部!

勝つしかない戦いで、監督の動きは早い。
山岸に代えて水野。守備力に欠ける水野の投入は大きな賭けだ。それでも、その可能性を信じる。ガンバも、水野を押える為に、入江を投入する。しかし、この局地戦を水野が制して、起点を作って見せる。判断の早いアーリークロスが、ガンバの心胆を寒からしめる。それ以上に、タテへ右から左への大きな動きがガンバの疲労を誘っていく。
追い討ちをかけるように、さらに早くも3枚目、切り札・林を投入。一気に勝負に出る。勝負に出た時の監督の采配、一片の迷いも無い。

それでも、フィニッシュに至る回数が多いのはガンバだ。
遠目から、セットプレーから。シュートの雨が降る。遠目からのアラウージョのシュートを弾き、シジクレイのヘッドもわずかに逸れる。アラウージョの渾身の左も、結城と立石が身体を張ってセーブする。「勝つんだ」という気持ちが、スタンドまで痛いくらいに伝わってくる。時間はわずか、それでも90分で終わらせる、両チームの執念。

その熱戦が選手の体力の限界に語りかけ、一人、また一人と足を攣らせる選手が続出する。倒れるのは、明らかにガンバの選手が多い。ここまで、走り続けた日々。「練習は嘘をつかない」と、身体に刻み込まれた「体力」がジェフの選手たちの足を前に向かせる。「ここで走れなければジェフじゃない」最後は「意地」しかなかった。

ガンバも、最後の時間帯を引き締めるために、負傷明けの宮本を投入する。
総力戦、やれる事は全部やる。そして、時計はロスタイムを伝える。力を振り絞って、攻撃を仕掛ける。左サイド、粘った勇人。中へ渾身のクロスを送り込む。中に待っていたのは・・・巻!どこに当たったのかも分からないボールが、ジェフサポの待つゴールへ転がり込む!時間はもうほとんど無い!やったぞ!
ゴール裏では、誰彼とも無く抱き合い、絶叫が起こる。しかし、いつまで経ってもオーロラビジョンが「1−0」にならない。巻が抗議してる?センターサークルにボールが行かない?何故だ?何が起こってるんだ?何でゴールじゃねぇんだ!?誰か説明しろよ!
この空気じゃマズイのは分かってる。でも、一回盛り上がってしまった気持ちをもう一回集中させるのは難しい。ヤバイと思いながらも、ああ、何だか分からないうちに後半が、終わっていた。


後半が終わって、選手がベンチ前で休息を取り始めて。ようやく、まだ勝っていないんだと理解する。選手たちを奮い立たせるように、アメイジング・グレイスが響く。唯歌う事で集中が再び高まっていく。やるぞ、まだ終わっていないんだ。

延長戦。体力勝負。走り勝ってやる。それだけの練習はやっている。
キーマンは、途中投入された水野。右から相手を切り裂いて、チャンスを作る。リスクを恐れない、勝負の姿勢。それに反応して、巻が駆ける。抜け出して、決定的な一撃!しかし、わずかに枠を逸れる。
直後に訪れる大黒の反転シュート。これも、わずかに枠を外れる。互角。どこまでも互角。目まぐるしく、攻守が入れ替わる展開がどこまでも続く。それでも、押し始めているのはジェフだ。何人もが、足を攣らせ動けなくなるガンバ。ジェフは・・・まだいける!延長が後半に入って、その運動量の差はさらに明白になる。イリアンが、大輔が、疲れきった身体に鞭を打って、最前線へ向けて駆け上がっていく。狙い済ましたシュートが、藤ヶ谷を強襲する。ペナルティエリアの中に、この時間でも何人もの選手が駆け込んでいく。いつものジェフのサッカーを最後まで貫く。
それを、シジクレイを中心に受け止めるガンバ。本当に最後の最後まで、死力を尽くしきった戦いとなった。・・・そして、タイムアップ。勝ちたい。でも、この勝負にもはや結果は必要なのか?そう思える激闘だった。それでもなお、誰もが「勝者」となりたかった。相手がガンバでよかった。だから、勝ちたい。それだけだった。

PK戦を前にピッチに横たわる選手たちに、最後の声援が降り注ぐ。
この日、三度目のアメイジング・グレイス。勝ちたい。勝って、この選手たちと喜びを分かち合いたい。黄色く染まったスタンドから、「声」が純化していく。この13年の間に色々な事があった。辛い事のほうが多かった。このピッチに立てない選手が何人いただろう。低迷にあえぐチーム、離れていく離れざるを得ない選手と同じように、数え切れないサポーターがこのチームの応援から離れていった。誰もが、こいつらに勝たせたかった。優勝の栄冠を共に分かち合いたかった。

ただ、この日だけはまるで昔のような、皆が居るスタンドだった。
サポーターの声には「音色」がある。
いくらサポーターソングが変わっても、サポーターの声は変わらない。

その歌声の中で、リラックスした選手たちが居た。中心に居るのは阿部。苦しい時も、悲しい時も、彼はジェフと共に居た。そして今、本当に頼れる主将として、この場に居る。円陣の中には笑顔が溢れていた。
緊張感があって当たり前のPK戦、自分はかつてこんなにも笑顔で迎えるチームを見たことが無い。オシム監督も、スタッフも加わった円陣。最後は「千葉!」のコールに背中を押され、PK戦の舞台へと歩き出していく。ジェフサポーターが待つホームのゴール裏。そのゴール前には立石。この舞台に立石。最も古株になった。常に日陰でしかなかった男が迎える、初めての大舞台。あるのは全幅の信頼。ただ、彼の名を呼ぶ。

1人目、ガンバのキッカーは遠藤。
早鐘のように高鳴る胸を押えて、スタンドでは、選手たちと同じように誰彼ともなく肩を組み、声を掛け合った。「Save a goal 立石」のコールの中、ゆっくりとした助走に入る遠藤。動かない立石。。。じれた遠藤が、力の無いボールをコースに狙って放つ。右に飛んで叩き落す立石。ガッツポーズと絶叫。「まだ何も終わっていない!」

セーブの興奮冷めやらぬ中、歩み寄る1人目はキャプテン・阿部勇樹。
昔は怪我がちだった阿部。彼が、この場に居てくれる事がこれほど頼もしいとは。かつて、阿部が、勇人がユースから上がってくるまでは絶対に下には落ちられない、そう思った日が思い出された。彼がトップで戦い始めて、8年。どれだけの想いが彼にあったのだろう、「阿部は決める」そうとしか、思えなかった。大声援の中、ボロボロの体から、力強いボールが放たれ、ネットを揺らす。こぶしに力を込めて、声援に応える阿部。

もう後は、ひたすらに叫んでいた。
晃樹が、浩平が、林が、次々にネットを揺らしていく。臆することなく、堂々とこの勝負に勝つんだという強い意志が込められたボール。ガンバの最後のキッカーは、サトシ。これも因縁。イリアンよりも、ジェレよりも前、ジェフの「5」は彼のものだった。立石に読まれながらも、プレッシャーを跳ね除けて決めてみせる。

そして、音が割れた。

最後のキッカー、巻誠一郎。
浮つく事無く、凛としてボールに向かう巻にこれ以上無い声援が起こる。負けられないガンバからも、絶叫が起こる。この一撃に、全てを込めて。巻の右足が振りぬかれた。一瞬、時間が止まったような、そんな錯覚を覚えて。力強く、ボールがネットに突き刺さった。

それだけ見届けて、巻に向かって選手たちが駆けていく姿を見て。
誰彼構わず抱き合って、聞いた事も無い絶叫を聞いて、嗚呼これが優勝するって事なんだと思った。ここまでしなくちゃ勝てないのかよ、みんな泣いていた。大のオトナの男も、女の子も、オバチャンも、昔馴染みも。黄色い歓喜の輪をかみ締めながら、みんな泣いていた。長かった。本当に長かった。これが見たくて、ずっと今日まで応援してきたんだ。

   

余韻。
顔を合わせる一人一人と握手を交わす。仰ぎ見るオーロラビジョンに、監督の少し涙ぐんだ表情が映されて、また涙腺が脆くなる。少しは恩返しが出来たのだろうか、監督にこの表情をつくらせた選手たちに、感謝しなくちゃいけない。
そして、選手たちが一歩一歩国立のスタンドに上がってゆく。戦い終え、ガンバの選手たちと健闘を称え合いながら、ゆっくりと。阿部が優勝杯を受け取る。そして、全員で振り返ってガッツポーズ。この光景、目に焼き付けておかなくては。ここまで来るまで、どれだけの悔しさを経験してきたんだろう、阿部には、いまここに居る選手たちには、優勝の喜びを刻み付けてもらわなくては。

MVPは立石。これまでの苦労への報いか。この瞬間立石は「1」を下川の番号から立石の番号にした。人生に一回くらい、こんな瞬間が無くちゃならない。努力が報われる、そう言う人生じゃなきゃ。
「タテのMVPが嬉しくってよぉ」そう言って、また泣いてる昔馴染みがいた。本当にようやく、嬉しいと心から思える瞬間があった。


喧騒も一息ついた頃、国立の最上段で新宿の高層ビル群を遠くに臨みながら、横断幕を片付けていた。東京とは思えないほど空気は澄んで、空は濃いブルーに変わりつつあった。
「勝ったんだなぁ」そうつぶやいて、「優勝するって気持ち分からなかったけど、また勝ちたいな」言われて、大きく頷いた。監督が胴上げを拒んだのは、まだ戦いが続くから、そう言う事なんだろう。一つの物事を成し遂げて満足に浸っていたら、その先には進めない。
もう一度、何度でも優勝するために。
今日のようなスタジアムの空気をいつも作ってゆくために。今からが、また挑戦だ。


千葉0(0−0、0−0、0−0、0−0)0G大阪
<PK>
先攻・大阪:遠藤×、アラ○、シジ○、大黒○、山口○
後攻・千葉:阿部○、水野○、工藤○、林丈○、巻誠○

11/26(土)・第33節・G大阪戦 2005年11月27日(日)21時11分15秒 deletemodify

再戦の時が来た。国立での激闘から20日間あまり。
ガンバにとっては雪辱の、ジェフにとっては返り討ちの、そして優勝を目指す上で共に勝たなくてはならない試合だった。ガンバのホーム万博。青く染まったスタンドがホームチームの勝利を期待して揺れている。優勝のために、引退の決まった松波のために。その「想い」の力は強烈だ。

あの時と違うのは、ガンバがアラウージョ、大黒、二川と言う攻撃の主軸を欠いている事。その穴を、家長・三木・寺田と言うユース上がりの若手に託して勝負に出る。
対するジェフは、イリアン・阿部が出場停止から明けて体調万全。「ジェフ有利」と言う下馬評だけがこの試合の敵だった。サポーターの間にも、11/5ほどの緊迫した空気は無い。子供向けのサッカー教室、ブラスバンドの演奏と、謀略のように「まったりムード」を作らされ、迎えたスタメン。一様に皆の空気が凍りつく。
「DFストヤノフ DF斎藤大輔・・・2バック!?」
いくら相手が1トップとは言え。あの7月の2バックをここでやるのか、監督!この緩んだ空気を断ち切る用兵。スタンドはにわかにざわめき出した。「坂本を下げて3バックなんだよな?」そうは皆言うものの。実際に円陣ダッシュで散った選手たち、最後尾には2人のみ・・・うわ、マジで2バックだ。とにかくやるしかねぇ!

試合開始から一気呵成に攻め込んだのはガンバ。
特に両翼に開いた、山岸・水野を押し込むように対面の渡辺・家長が仕掛けてくる。メンバーを欠いているとは思えない、スピーディーな攻め。最初から、イリアン・阿部が身体を張るシーンが多くなった。とにかく、ルーズボールが拾えない、繋げない。唯一、ハースに繋がった時だけはボールが多少前に留まっていてくれるものの、巻や他の選手に行くと、秒殺で奪われてしまう、まるでノック練習をやらされているかのようだ。
それだけガンバの気持ちは強く、シュートまでは行かないものの、惜しいシーンを作り出していた。最終局面では、何とかイリアンや櫛野が身体を張って守るジェフ。そして迎えた30分。

ゴール左で奪われたFK。
蹴るのは遠藤。カーブのかかったボールを櫛野が危なげなくキャッチした・・・ように見えたが、副審はこれにラインを越えたとして「ゴール」の判定を下す(※ビデオで確認したところ、確かに入っている)。何事か分からず、騒然となるゴール裏、猛抗議、副審の詰め寄る岸本GGKコーチ。退席処分。失点は変わらず、0-1で試合は再開する。
この時、万博のゴール裏は「審判に試合を壊されてたまるか」と言う気持ちで、一気に火がついた。その直後、今度は阿部が倒されPKとなる。審判が目立つ事に不快感は禁じえなかったが、ともかく同点のチャンスだ。国立のゴール裏が蘇る。まるであの時の「6人目」のように。ただ、阿部の向こう側に居るのは青いサポーター達だ。
嫌な予感。しかし、そんなことはお構いなしに、ド真ん中へ強烈なシュートが突き刺さる。「(GKが)どちらかに動くだろうと思って最初から狙っていた」と試合後。なんだか、俺が考えてるより相当精神的に強くなっているようだ。

これで、いくらか落ち着きを取り戻すジェフ。
DF陣の攻め上がりも少しずつ出てきた。ガンバの相変わらずの攻撃には、最後の詰めに恐さがない。しのいで、最後のチャンス。イリアンが前線へ駆け上がっていく。丁寧に出したスルーパスのその先には、左から上がっていた智。左足でタイミングを図って、追加点。前半のうちに逆転に成功する。

迎えた後半、選手たちはなかなか出てこない。
監督の「檄」がいつもより長いようだ。この後半に向けた「間」も、もうお馴染みのものだ。

そして、後半頭からはジェフの猛攻となる。
決定的なチャンスが巻に訪れるが、タイミングがずれて、シュートすら撃つことが出来ない。どのチームの誰もが、巻をマークするようになって来ている。その中で結果を出す事が出来るのか、巻も正念場に来ている。それにしても・・・足技を相当練習しないと、これから「点の獲れるFW」として生き残っていくのは難しいだろう。

後半開始からしばらくあった決定機を逃すと、再びガンバペースとなった。
再び主導権を奪い返さんと早めに林が投入される。前がかりになったガンバの裏へ、林が快速を飛ばして抜け出していく。さらに、山岸が林とのコンビネーションを試みるが、クロスはわずかに合わず、フリーで放ったシュートも宇宙開発。
ここで、ガンバの攻勢を食い止めるために、山岸→結城の交代となった。

3バック化して、烈火の如く攻めに入るガンバを受け止め続けた。
前半以上にルーズボールを奪われる。とにかくガンバのキープの時間が長い。ボールが外に出ないままに波状攻撃を仕掛けられる。球際には、体ごとぶつけるような激しいチャージで、何度もジェフの選手たちが倒される。足掻いている、点を取れない事で焦っている、どうしても勝ちたいとガンバが全力を尽くしているのが良く分かる、必死の攻撃だった。
25分過ぎ、最後の希望を託して「11」松波が投入される。万博が、一気にヒートアップする。けれど、ジェフだって勝ちたい気持ちは一緒だ。あの11/5の相手がガンバで良かった。だからこそ、この試合にも勝ちたい。俺たちに、あの時から緩んだ気持ちなんて無いんだと、全てのガンバの関係者にそれを伝えたかった。

最後の30分間、ひたすらに耐えた。
いつ失点してもおかしくない、苦しい守りの時間だったが。ついに耐え切る事が出来た。爆発する歓喜の向こうで、静まり返る万博があった。これが勝つと言う事。相手の強い想いをも貫く強さが、少しずつこのチームについてきたんだと思う。
やるべきことをやったチーム。試合後に吉報は届いた。上位陣の総崩れ。最終節に運命は委ねられた。勝つこと。最後の最後まで、リーグ戦を楽しめる事を誇りに思おう。楽しんでやろうじゃないか。
電車は行き過ぎてしまったのか?監督、そうは思っていないんだろう?この3年間で誰もが知っている。一番勝ちに餓えている、絶対に諦めないのは、監督、貴方だと言う事を。


−−−−−


試合後、今季限りで引退する「ミスターガンバ」松波選手の引退セレモニーがあった。
ジェフサポからの「松波」コールに応えて、スタンドまで近寄ってくれた松波選手は、「ナビスコ優勝おめでとう」と言ってくれた。そのスポーツマンシップに深い敬意を払いたい。同時に、相手選手からも祝福される試合をしてみせたジェフの選手たちを改めて誇りに思う。
ガンバサポーターの想いがこもった素晴らしい引退セレモニーでした。
松波選手、13年間お疲れ様でした。また指導者や別の形で、ジェフと好勝負を繰り広げてくれる事を期待しています。

・・・それにしても。
永輔や下川、武藤・・・こんな形で送ってあげたかった。入団から引退までを同一球団ですごし、「ミスター」とまで言われる選手はほんの一握りだ。清水の沢登もそうだが、戦い抜いた選手は本当に値する。

いつかジェフでも、幸せな引退を迎える選手が出てきて欲しい。

10/23(日)・サテライト・横浜戦 2005年10月27日(木)1時48分34秒 deletemodify

千葉4(3−0、1−2)2横浜

前半10分・高橋
前半17分・要田
前半38分・水野
後半17分・市原(PK)



サテライト最終の横浜戦。
この試合は、担架係としてピッチサイドから試合を観ていたので詳しい記録はなし。普段なら、応援をやってるトコですが、まったり観てました。さてさて、ジェフのメンバーは以下の通り。

−−高橋−−要田−−
−−−−水野−−−−
楽山−−−−−−藤田
−−芳賀−−中島−−
−市原−瀬戸−水本−
−−−−櫛野−−−−

サブ:岡本、竹田、中原、堀川、川淵


櫛野をはじめ、主力級も多数出場。なかなか豪華なラインナップ。対する横浜も、FWになんと久保が!他にも清水(元磐田)、大橋、熊林など準主力級も多数出場。お互いの先発平均年齢は、23.82歳と全く一緒。ところが、試合の方は圧倒的なジェフペースに。

前半のファーストプレーこそ、久保にボールを運ばれたものの、後はほとんどジェフの時間。何せ、横浜の守備がザル。ボランチのところで全くプレッシャーが無いばかりか、セットプレーでも易々とフリーになれる、ってか新手のノーガード戦法ですか?
特に要田の2点目なんて、ペナルティエリア内でFWを完全フリーにするって、一体・・・。まぁ、そんな体たらくだった事もあって、当然ながらチャンスを量産。やりたい放題。水野は好き勝手にドリブルするわ、藤田・ラクはサイドから上がりまくるわ、中島のシュートがバーに当たるわ、DFは最前線まで攻めあがって来るわ。
あと3点は取れた展開で、横浜ベンチはヘッドコーチがぼやきまくり。まぁ、そうだわな。全く機能して無いから・・・。

後半、ジェフはメンバー変更無し。
横浜は、久保に代えて狩野を投入。相当ハッパかけられたのか、横浜が攻勢に出てくる。そして、ジェフは毎度の事ながらお付き合いしてしまう。前半同様、中島と芳賀のトコで止めておけば良いのに、3点取った気の緩みからマークが甘くなる。流れのままに、DFも慌てだし、瀬戸が狩野にアームロックをかけるような感じでPKを与えてしまう。
数分後、瀬戸は懲罰交代。ふて腐れてクラブハウスに引き上げてしまう瀬戸。交代は厳しい判断だが、もうちょっとスマートに止められないものか。

交代出場したのは堀川。藤田がDFラインに下がり、堀川は右WBに。
自慢の快速を活かした突破に期待したいところだったが、緩急の工夫の無い仕掛けは、簡単に横浜の餌食に。速さを活かす場面はなく、良いところは今日は無かった。

同様に交代出場した中原も、相変わらずプレーが軽くて「ボランチ」にも「プレーメーカー」にもなれていない。当たった時にもう少し「踏ん張れる」ようじゃないと、あのポジション(ボランチ)では厳しいだろう。
背格好は中原より低くても、阿部や勇人の守備は腰が入っていて厳しい。中原は、まだ課題をクリアするきっかけを掴めていない。

互角の展開の中、DFの攻撃参加が増えていく。特にミツキと水本の二人は最前線まで上がっていく。次第にプレッシャーをかけ、ミツキが猛烈な勢いで上がって行ってPKゲット。横浜ベンチが「なんでや、カンペキにボールやろ!?訳分からん、教えてくれ!」とか喚いてるうちに、ミツキ自身が沈めて追加点。4点目。

勝負の趨勢は決まっていたが、横浜は奪い返そうと果敢に攻めてくる。
その甲斐あって、終了間際に狩野がこの日2点目を決めて4−2。前半の圧倒的な展開からすれば納得できないスコアだが、ともかく最終戦を勝利で収める事が出来た。それなりのメンバーが出ていたから、当たり前といえば当たり前だが、チームがそれなりに連動してトップに近いサッカーを観れたのは収穫だった。
思えば、今季初めはロクにサッカーになっていなかった。そこから、これだけの組織を作ってきたのはサテとは言え、すごい事。後は、トップに繋がる次世代の人材供給なのだが。今の主力・準主力は層が厚い・・・それだけに、飛び抜けた「武器」が欲しいところだ。そう、例えば強烈な「左」とか。


試合後、横浜はピッチで即席ミーティング。
正直、横浜はまだ苦労しそうだ。選手の技術は高いが、個々がバラバラでチームとしての体をなしていない。危機感の薄さと言うか、恵まれ過ぎているのではないか。その中で、サテライトの選手になんとなく中庸の空気を感じる。
この中に、永輔や下川が居たらどんな風に若手に何を伝えるのか気になってしまった。

10/22(土)・第28節・神戸戦 2005年10月27日(木)1時47分22秒 deletemodify

フクアリ2試合目となった神戸戦は、「晴れ」の予報が外れて「雨」に。
もうホームゲームは4試合連続。なんか呪われてるのか・・・と言うか、気象庁。雨が降ってる朝の予報で「曇り時々晴れ」はいくらなんでも無いと思うよ。そのお天気に、幕張で行われた日本シリーズ+東京モーターショーも重なって、お客さんは10,000人ちょっと。前売りが12,000だったから、雨天ヤダ+神戸はパス組が結構いたのかも。

さて、ゲームは羽生・林がコンディション不良で欠場。
その代わりとして、ガビ・ハースが出場。前半戦のセレッソ戦以来となる、欧州三銃士の揃い踏みとなった。ところが、内容はあまり良くなかった。横浜戦の方が、明らかにチェイシングからボール奪取、シュートまでの流れが良い。・・・ひとえに羽生の不在、それが前線の「なめらかさ」の欠如に影響していた。監督も試合後に話していたが、ガビは羽生ほど動く選手じゃない。それを分かった上で活用する必要がある。

そんなジェフを、神戸はパスワークを駆使して攻め立てて来た。
ただ、こね回しはされるものの、さほど恐いピンチは無い。いなしながらチャンスを伺い、23分に山岸が右サイドを深々とえぐって、ガビにプレゼントパス。打てば決まるような決定力を持つガビ、簡単にこれを決めて先制する。
その後も、攻められながらセットプレーやカウンターからチャンスを伺う。CKからのダイレクトボレーを放つガビ。ちゃんと枠に行くがセーブ。ハースのフェザーパスから抜け出した巻、GKをかわしてシュートも・・・枠の外。トドメをさす事が出来ない。

そのまま前半終了。リードはしているが、攻撃は単発。攻められてもいる。らしくない展開だ。
そして後半も、案の定神戸の攻撃を喰らった。ところが、後半10分にガビを工藤へと代えると状況が一変する。運動量とキープ力を併せ持つ工藤にボールが収まりだすとジェフが一気に反転攻勢となる。

まず15分、ハースから山岸に繋いでシュート。GKが弾いたこぼれ球を巻が押し込んで2−0。さらに直後、坂本のクリアを神戸DF北本がクリアミス。追っかけていった巻を、坪内が巻ごとボールを中央へ弾き飛ばすと、待っていたのはハース!20m以上ある豪快な一発が、試合を決定付ける。

このシュートが決まった瞬間、神戸の選手達は下を向いてしまった。
ジェフが残留戦線の常連だった時代、こう言う姿を何度も見たものだと、仲間の何人もが人事じゃないとばかりに話していた。「今日もダメか」と言う絶望感に苛まれてしまった神戸。もう、反撃の力は無かった。
最後は、工藤→中島と繋いで、中島の豪快なJ1初ゴールで4−0。フクアリ2試合目を素晴らしいゴールラッシュで締めくくった。

ガビが代わるまでの内容は良くなかったが、二種類の戦い方をしたと考えれば成功だった。
勝つべき試合に勝つこと、選手層の厚みを見せた事も収穫と言えるだろう。
もちろん願わくば、90分間の主導権が取れれば良いが、そうも行くまい。大勝で得失点差も稼ぐ事が出来た。次は、急に調子を上げてきている大分が相手だが、普段通りにやれば何の問題も無い。この3年間の積み重ねが、練習量の差が、90分のゲームが終わる時に現時点での力の差を見せ付ける事だろう。

10/16(日)・第27節・横浜戦 2005年10月20日(木)23時36分35秒 deletemodify

千葉2(1−0、1−2)2横浜
<得点>
千葉:阿部(CK羽生)、巻(ハース)



16日、終わったんだよな?こけら落としだったんだよな・・・?
あれほど待ち焦がれていたこけら落しが終わった。でも、なんと言うか、まだ新しいホームスタジアムの実感が沸かない。新しい家に引越したとしたら、こんな気分なんだろうか。きっと、じわじわと、このフクアリに馴染んで行くんだろう。



二転三転した天気予報は結局雨になってしまった。
一番降って欲しくない、ファンがスタジアムに向かう時間帯に当たったものの、この日はいつもと様子が違った。スタジアムを囲む長蛇の列。そして、スタジアムに向かってくる人波が途切れない。一通り、横断幕その他の準備を終えてコンコースに出ると、まだずーっと歩道橋の方まで人が続いている。すげぇ。某F氏を「見て下さいよ!」と連れて行ってしまったほどだった(笑)



新スタ祝いのイベントの数々は、忙し過ぎでほとんど見れず。
コンコースの柱に、下川やジェレ・武田ら過去の選手達、勇人や現在の選手達のパネルがあったのにはちょっと感動。「絆」がテーマだけに、こう言う演出で来たか。とはいえ、演出だけでなくて、きちんとこれからの選手達への誠意ある対応で、「絆」を作って行ってもらいたいものだが。

時間は流れ、選手が入ってくる。大歓声。
立石・櫛野が先に出て、ボールを投げ込む。遅れて入ってきたフィールドの選手達を、また拍手と大歓声が包む。屋根が、声を響かせて、何とも言えない素晴らしい雰囲気になった。

続いて始まる選手紹介。マリノスのリザーブには永輔。去年の臨海とは違って、自然と拍手が起こった。俺には、これがどうにも嬉しかった。もうジェフの選手では無い永輔にしてやれる事は何も無い。けれど、今日と言う日を一緒に迎えたかったと永輔に伝えたかった。この拍手に少しでも永輔が心安らいでくれたのなら、そう思わずにはいられなかった。

感慨に浸る間もなく、ジェフ側の選手紹介が始まる。
オーロラビジョンの黒い背景に映し出されるイエローのフレームだけのジェフのロゴ。運営シミュレーションの時から大幅にパワーアップしていた。なかなかカッコイイじゃないか!
ちょうどその時はユニフラッグの準備をしている時だった。その瞬間、急になんかグっと来た。右を見ても左を見ても、黄色に染まったスタジアム。その中でに選手達が、満員の観衆に手を振って応えている。いつかこんな雰囲気の中で、選手達に試合をさせてあげたい。そう思い続けて来ただけに、どうにもこうにも嬉しかった。選手達は、この雰囲気をどんな風に感じてくれていたんだろうか。



他の粋犬会の仲間と歌詞カードを配りながらスタジアムを回っていると、やっぱり普段目にしない顔が多い。一見さんや、招待客が多いのだろう。誰も彼も嬉しそうで、それがまた嬉しかった。と、同時に昔馴染みで、久々に目にする顔も何人も居た。地方に引っ越してしまった人、仕事が忙しくてスタジアムに足を運べなくなってしまった人、そう言う人達との再会もまた嬉しかった。
サマナラの前を通ると、マスターが忙しそうにお客さんの注文を聞いたりしていた。生き生きと仕事をしている。誰もが、この新スタジアムを待ち焦がれていたんだと感じた。


いよいよ選手入場。タオルマフラーにゲーフラ、黄色く染まるゴール裏。
歓声と、演出の爆発音。ラスタカラーのテープが、バックスタンドに飛び込んでいく。

いつもと同じように円陣が散って、キックオフ。
試合が始まってしまえば、いつもと同じように応援にするだけだ。だが、どうしても、なんだか目の前で起こっている光景に実感が無い。迫力がありすぎる。素晴らしい臨場感。また左右を見回して、黄色に埋まったスタンドを見てしまう。なんか、夢のようだ。

現実に引き戻したのは、マリノスの攻撃。
坂田が、ホントに目の前まで切れ込んで来る。その迫力に圧倒されつつも、声を張り上げる。ジェフの動きは良い。緊張感に固くなるんじゃないかと思っていたが、いつも以上にジェフらしい、気合の入った走りだ。林が突っかけ、ドリブルでシュートを狙う。羽生が、フィールド狭しとドコにでも顔を出す。勇人は強烈なミドルを見舞い、イリアンが大さんが前線まで攻め上がる。

普段通りのジェフ。でも、何もかもが違って見える。
日立台やヤマハ、三ツ沢で感じた雰囲気でもない。近くても、ピッチ全体は分からなかった。仙台とも違う。あそこまでゴール裏からフィールドは遠くない。強いて言うのなら、アルウィンか。でも、それよりもスタンドが低く、選手達の息遣いさえ聞こえてくるかのようだ。

時間の経過と共に次第にマリノスを押し込むジェフ。
左翼の坂本が田中隼に劣勢を強いられていたが、右の山岸はドゥトラに互角以上の戦いを見せていた。両翼が命のジェフは、単騎突破ではなく2人目・3人目の選手が絡むことで、道を拓いていた。DFまでが攻撃参加する波状攻撃で徐々に、横浜の3バックの裏に風穴を開け始める。
何度目かのトライで得た、16分のCK。蹴るのは、羽生。低い弾道のボールがゴール前へ。どんぴしゃのヘディングシュートがネットに吸い込まれる!誰だ?ほどなくしてスタジアムを包む「阿部勇樹」コール。高々と突き上げられた腕が、誇らしげだった。フクアリ、初ゴールは主将・阿部勇樹。これで、浦和戦から3連続ゴール。誰も文句を言うまい、決めるべき男が決めた初ゴールだった。

オブラディ。一気に盛り上がるスタジアム。
その空気に後押しされるように、ジェフの選手達も活き活きと動く。立石の好守もあり、前半は横浜を押し込んだまま終えることが出来た。

後半に入っても、ジェフの攻勢は変わらない。
左右に振って、横浜DFを揺さぶり、勇人がボレーを放つ。だが、枠を捉えられない。2点目を奪えなかった事が、横浜に付け入る隙を与えてしまった。前半、飛ばしすぎたツケが、ジェフの足を重くする。そこに、投入された横浜の10番・山瀬が襲い掛かる。前がかりになり、足が止まりかけたジェフには山瀬のドリブルがじわじわと効いてくる。

ボールを奪えず、展開され、押上げを許す。
シュートまで持っていかれてしまう。相変わらずフィニッシュで恐いのは坂田。大輔・結城では、スピードで後手を踏んでしまう。山瀬が入って、一段と活きるようになった。

劣勢の中、空気を変えたのは結城の攻撃参加だった。ボールを持つと、突如ドリブルで攻め上がる。イリアン・大輔の攻撃参加は相手も織り込み済みだが、結城の攻撃までは相手も想定していなかったようだ。マークがずれ、その結城にマークが集中する。左に居た林はガラ空き。そこに、見事にパスが通る。ホントに結城か!?
だが、シュートは榎本がかろうじて弾く。羽生が詰めるが、榎本も必死にボールを抱え込む。

一進一退の攻防の中、ジェフは選手交代で打開を図る。
ハース・水野がスタンバイし、林・山岸と交代。ところが、期待とは裏腹に、この交代は功を奏さない。交代していきなり、ゴール前の混戦からこぼれたボールがフリーのドゥトラへ。これを豪快に叩き込まれる。
シュート自体は撃ったドゥトラを「さすが」と褒めるべきだが、水野がマークを確認する前にやられてしまった感じだ。その後も、水野はフィジカルに勝るドゥトラを攻撃力で押し込む事が出来ない。左の坂本は、相変わらず劣勢。しかも、珍しく足をつってしまって、さらに動きが良くない。両翼の主導権が、横浜に握られてしまう。

ハースも、相変わらずの無用なファウルでチャンスメイクできない。
流れを変えようと、さらに羽生に代えて工藤を投入。これが多少は効いたか、水野がカウンターからフリーになるが、自分で行けばいいところをパスを選んで、相手の守備に引っかかる。天を仰ぐ監督。

それでも、オープニングゲームに勝利しようとする気迫が、ジェフの選手達に力を振り絞らせる。DFも含めたスクランブルモードで、セットプレーを立て続けに得ると、43分。CKのこぼれ球を工藤→イリアンと繋いで、左のハースへ。
大島のマークを受けながらも左足で上げたクロスがファーサイドへ流れていく。結城がそのボールでへ喰らいつこうと飛んだその先に、待っていたのは巻だった。渾身のダイレクトボレーが榎本の足元を抜く。問答無用の豪快な一発だった。

スタンドへ向かって吼える巻。
その瞬間、フクアリの9割が大歓声に包まれた。まるで、岩本テルのロングシュートが決まった仙スタのようだ。巻は、ちょうど自分の目の前。自分もまた、この瞬間の主役になったかのようで、何がなんだか分からず巻の名前を叫んでいた。

普段なら、ここで「まだ試合は終わってないぞ!」と叫んでいたと思う。
首位を追撃する為には、絶対に勝って終わらなくてはならなかったのだから。けれども、今日は全くそんな事を考えなかった。勝ったと思ったし、完全に浮かれていた。だから、坂田のゴールが決まったあと、状況が良く理解できなかった。

「ぱん」と張り詰めていたものが割れたように、ただなんとなくの拍手で選手達の挨拶を見送ってしまった。巻の悔しそうな顔、ハースが阿部に「スタジアムを回って挨拶して来い」とでも言いたげなジェスチャーをしている様子だけが、やたら頭に残っている。



ゴミを拾ったり、横断幕を片付けたりして、スタジアムの外に出ると夜闇の中にフクアリがまるでUFOのようなシルエットを映し出していた。
なんだか、いろいろあり過ぎて疲れた。この疲れも、引越しが終わった後のような感じか。人を待つ間、「これがホームスタジアムなんだよなぁ」とぼんやりとスタジアムを眺めていた。試合のことを思い返す、何もかもが現実離れしていたが、確実な気持ちが一つだけあった。

「悔しい」。勝てなかった事が。
「ジェフらしい」試合を引きずってしまったことが。
勝ちきれない伝統なんていらない。この日を教訓にして、同じ事を繰り返さない事が、新しいジェフの伝統を作るんだ。

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PBS v.1.01