日常を取り戻すための第一歩 2020 J2第2節 vs大宮アルディージャ ●0-1

日常を取り戻すための第一歩 2020 J2第2節 vs大宮アルディージャ ●0-1

2020/06/27(土)19:00
フクダ電子アリーナ
J2第2節
千葉 0(0-1,0-0)1 大宮

<得点>
45+5分 大宮 41小野

千葉公式
大宮公式
Jリーグ公式


長かった。

本当にまさか、2020年シーズンがこんな状況になってしまうとは。
今までの当たり前が、コロナウイルスの蔓延に全て覆され、
一試合をこなす事が、ここまで難しい状況に、世界が追い込まれてしまうとは。

この試合を迎えるにあたって、
リーグ再開のために、
絶大なリーダーシップを発揮した村井チェアマンをはじめ、
Jリーグの関係者、各クラブのスタッフ、コーチ陣、選手、
自治体や、スポンサー企業、あらゆる関係者の皆さんに、心から感謝したい。

そして、今日の試合は、これまでのスタジアムを、
これまで以上のスタジアムを、Jリーグのある日常を取り戻すための第一歩であり、通過点でしかない。

時間はかかるだろう。
けれども、いちサポーターとして、Jリーグを取り戻すために、協力してゆきたい。
本当に、再開への尽力、ありがとうございました。

しかしそれでも尚、この再開初戦は「リモートマッチ」と名付けられた無観客試合となった。
フクアリに、いつもの活気は無い。
この再開に合わせ、ヤマハが急ピッチで開発を間に合わせてくれた、サポのボタン操作に応じてスピーカーから流される声援を受けながら、ゲームは淡々と行われた。


17時前に発表されたスタメンに、一瞬目を疑った。
「高橋壱晟」の名。
昨年はレンタル先の山形で出場が無く、
中断前もランニングでリハビリをしていたのみ。
出遅れていたはずの彼がスタメンだ。

それに、今期山口から加入した、「山下敬大」。
船山や、川又、寿人を押し退けて、この再開幕のスタメンを掴んだ。

その一方で、アンドリューや、為田、小島、矢田、安田、寿人の名前は、
ベンチメンバーにすらない。
2チーム、3チームが組める陣容とはいえ、期待と、厳しさが相半ばするメンバーだ。

その他のメンバーでは、アランがスタメンを掴み、
ディフェンスラインは、右にゲリア、増嶋がチャンと組み、左には下平。

キャプテンマークは田口が巻き、
最後尾には新井(章)が控える。

DAZNの中継は、キックオフの10分ほど前の18時50分頃からようやくスタジアムの映像を流し始めた。薄暗いスタジアム。照明で屋根を照らされたフクアリは、美しくも寂しい。
普段とは異なり、ゴール裏で映像に映り難いスポンサー看板の位置がバック側に移されたりしている。

写真撮影も、選手同士の距離を空け、ラグビーの「ハカ」が始まる前のような配置。
センターサークルに並んで医療従事者への感謝の拍手、
そして肩を組まずに円陣ダッシュ。
スピーカーからは「WIN BY ALL!」のコールが響いている。

コイントスはどちらが勝ったのかわからなかったが、
さすがの高木監督もこの状況ではエンドチェンジはして来なかった。
キックオフ。笛の音がいつもより乾いて響く。

試合前、尹晶煥監督は練習が中断してしまった事で、選手達が守備のやり方を忘れてしまったと語っていた。

が、試合が始まってみると、去年までは見ることが出来なかった綺麗な3ラインがピッチに引かれた。距離感のバランスよく、試合開始からジェフがボールキープで主導権をもって試合を優位に進めていく。

中心になったのは田口。
長短織り交ぜたボールの展開のテンポが良く、スペースが前にある選手へと的確に配球していく。コンビを組む壱晟も、ブランクを感じさせずにすんなりとゲームに入り、配球のテンポを落とすことが無い。

試合開始から20分間ほどは、驚くほどのジェフペースだった。
大宮にチャンスらしいチャンスは無く、逆にジェフがボールを握れば、ほとんどシュートで終わっている。予想以上の仕上がりだった。

両翼の堀米とアランは、ポジションを入れ替えながらサイドを抉り、
中央に待ち構えるクレーベ、そしてクレーベから一歩引いてボールを引き寄せる山下にクロスボールを供給する。

セットプレーを得れば、左足の堀米、右足の田口が、鋭い軌道でゴールを狙う。

開幕戦では、先制点のあと、琉球のプレッシャーに圧し込まれてしまい、防戦一方だったチームが、攻撃面でもスムースに機能していた。攻守に、整理整頓がされた「普通」のサッカー。整ったラインと合わせて、何か去年とは別のチームを見ているかのようだった。

大宮はシュートまでほとんどたどり着けず、ジェフのラインも高いまま。
そんな流れの中で、唐突に「給水タイム」が設けられた。
コロナウイルス感染防止の観点から、ボトルの共有はご法度になっている。ボトルには、出場選手の背番号がマーキングされ、ベンチ前まで皆が戻って、水分を補給していく。

行われたのは給水だけではない。
監督、コーチからの修正指示もまた、ここで行われるようになったのだ。
まるで、ハーフタイムが前半と後半の半ばにも設けられたかのようで、試合は、前後半がさらに2つに分けられた、4つパートのゲームになったかのようだった。

この機会を、実に巧みに使いきったのが、劣勢に置かれた高木監督だった。
前半の給水タイム後、明らかに流れが変わった。

大宮の右サイドハーフ、イッペイシノヅカ。
ここまで目立っていなかった彼だったが、ボールを握ると、強引に中へドリブルで仕掛け、シュートを放つ。ポジションに捕らわれず、自らくさびとなる彼の動きが突破口になり、大宮の他の選手たちへの警戒が緩む。ジェフは止める事が出来ず、急速にペースを大宮に譲り渡してしまった。

前半も残り僅かと言う時間。
ゴール前で増嶋が相手をファウルで止めてしまう。
このFKを、大宮の小野が「ピッチがスリッピーだったので速いボールを蹴った」と言う狙い通りの一撃。クリアしきれずに、ディフェンスに入った選手に当たり、前半の最後の最後で失点を喫してしまった。

この1点が重かった。
どこまでもリアリストな高木監督は、アウェイで手に入れた1点を、勝ち点3に繋げるため、「守ってカウンター」と言う定石中の定石の作戦を徹底してきた。

後半、応援による後押しも無いフクアリ。

固く籠った大宮のディフェンスの前に、ジェフはもうテンポ良く攻めることが出来ない。
堀米が前に抜けられるスペースはなく、そもそも彼にボールがなかなか出ない。
強引なくさびの縦パス、左右にスペースを探すボール回しは、大宮のボール狩りの格好のターゲットになり、逆にイッペイシノヅカを中心とした、カウンターが冴える。
キーパーが、今日の新井(章)で無かったら、複数失点は免れなかったのではないだろうか。たびたびキーパーと1対1の状態まで持ち込まれ、シュートを振り抜く余裕を大宮に持たれてしまっていた。

後半のジェフは、シュートまでも持ち込めなかった。

71分、給水に合わせ、右のゲリア、アランをセット入れ替えて、田坂と米倉を投入。
田坂が右SBに入り、米倉は右のMF。この配置はやや意外。
米倉は強引な突破からクロスを一本上げるも、それ以降はほとんど沈黙。

86分になって、下平、堀米に代えて、新井(一)と川又を投入。
パワープレーに活路を見出そうとするも、残り時間も少なくシュートにはほとんど繋げられなかった。

応援が無いせいだろうか。
負けているにも関わらず、淡々と時間が流れているように感じる。
試合の流れをひっくり返す空気、必死さ、PASIONがスタジアムから感じられない、フクアリは魂の抜けた器のようだった。仕方がないのだが、これがリモートマッチというものか。

交代枠を一つ残したまま、やがて試合が終わる。
きっと、観客がいた試合だったら、ベンチでアップする船山や見木に目をやる大勢の視線、彼らを出せというザワついた空気が試合の最後まで続いていただろう。
スピーカーからの声援が切られると、静寂があたりを包む。
試合後の余韻は何もない。

試合全体を振り返ると、
今後に向けての期待と、課題の相半ばする内容だった。

試合開始から20分ほど見せた、
・整備された守備
・田口の展開力を生かした
 左右のバランスの良い攻撃

これらは、琉球戦ではまだ見られなかった。
ようやく「普通」の攻守の基礎が出来つつある。

また、個々の選手では、壱晟や山下が予想以上に無難な出来を見せ、
先発同時起用された外国籍選手たちも、新しいサッカーに適応が進んでいた。
開幕戦では孤立気味だったクレーベが特に前半、テンポの良くボールに絡んでいたのは好材料だ。

一方、イッペイシノヅカを止められなかったように、
自分たちの守備陣形、守備のルールを逸脱してくる選手が相手にいると、それに対してどう対応するのか、応用が出来るところまでは成熟が進んでいない。

同様に、攻撃に関しても、守られた時の引き出しの少なさは、
交代枠の活かし方に課題を残した。

そして、フクアリで大宮と対峙して敗戦という結果は、
第2節とは言え、相手に6ポイントの勝ち点差をつけられたのも同様。
非常に痛い敗戦となってしまった。
高木監督のほくそ笑む顔が浮かぶようで悔しい。

DAZNを切ると、部屋の中も静かになった。
当たり前の光景が、どれだけ大切なものだったか、改めて思いを巡らせてしまう。

状況が悪化しなければ、7/11からは観客動員もが再開されるが、声援は送れない。
日常を取り戻すには、まだ長い時間がかかる。
その為に多くの人が、最善の努力をし、我慢をしている。

サッカーが観れること、勝敗に一喜一憂できること、
翌週の試合を楽しみに待つことが出来ること。
何気ない事だが、それは大事なことだった。

サッカーが無くても、生きてはいけるだろう。
けれど、サッカーの無い人生なんて、なんと味気の無いものか。

改めてリーグ再開に尽力された方々に感謝し、
そして、今シーズンが無事に全うできることを心から願わずにはいられない。