健闘も勝利には届かず 2021 天皇杯3回戦 vs川崎 ●1-1(3PK4)

健闘も勝利には届かず 2021 天皇杯3回戦 vs川崎 ●1-1(3PK4)

川崎が、現時点で日本最強のクラブチームである事に異論は無いだろう。
先般行われたACLでも目を見張らされたが、メンバーが変わっても、綻びを見せる事も無い連携の綿密さと、彼らがJ2に居た時代からずっと途切れる事の無い、攻撃を前面に押し立てたサッカーは、進化を重ねながらも、軸がブレる事は無かった。

今の力の差を持ってすれば、川崎が勝つと考えるのは当然だろう。
だとしてもだ。

試合前の事前搬入、一瞬だけビジョンに映った「4回戦 清水エスパルス 対 川崎フロンターレ」のテロップ。
これを準備していたスタッフには、「試合は終わらなければ分からないんだよ」と言い返してやりたかった。


2021年7月21日(水)18:00
第101回・天皇杯3回戦
ジェフユナイテッド市原千葉vs川崎フロンターレ
フクダ電子アリーナ

真夏のフクアリ。
五輪中断を控え、怪我さえなければこの一戦でいくら消耗しようと問題は無い。
出し惜しみの必要の無い状況と言えた。



全タイトルを狙う川崎は、有難い事に、この試合に主力をぶつけて来た。
レアンドロ・ダミアンをはじめ、外国籍選手4人を揃え、家長、登里、車屋と錚々たるメンバーが並ぶ。この川崎と戦う事は、普段J2で戦うジェフの選手にとって、体内の「物差し」が変わる。J1とのレベル差を存分に味わうことが出来る。


一方のジェフは、ほぼリーグ戦のメンバーながら、古巣対決の新井章太ではなく、鈴木椋大をチョイス。いちファンとしては、ここは新井で行って欲しかった。彼をまだ一年と少ししか観ていない自分にも、彼のもどかしさはスタメンを見た瞬間、伝わって来た。

主将の鈴木大輔もメンバー外。
岡野が復帰し、左WBは小田ではなく、末吉。
サブにはDF登録を一人も置かない割り切ったメンバーだった。


久々にアウェイサポが居るスタンドはいいものだ。
少しずつ夕日にスタンドが照らされるフクアリ。
昼間の蒸し暑さが残るものの、思ったほどには暑さを感じない。
両軍、1STユニフォームでキックオフ。

前半、試合のペースを握ったのは川崎。
対するジェフは、3バックではあるものの、末吉、安田の両翼の位置が低くなることが多く、ほぼ5バック。がっちりと、ブロックを組んで対抗する。

川崎と言うチーム。
ACLを視て感じたのは、ONとOFFがハッキリしたチームと言うこと。
常に走り回っているのではなく、むしろ、多くの時間帯は動きが少なくじっとしている。
が、ひとたび攻撃のスイッチが入ると、ボールを持った選手に連動して、2人目、3人目の選手が、まるで過給機が空気を吸い込むように、テンポアップし、僅かな隙を衝いてシュートまで持ち込む完結性がある。

その軸になっているのが、レアンドロ・ダミアン、ジョアン・シミッチ、ジェジエウの外国籍選手勢。それぞれが、(J2レベルから見れば)全くケタ外れで、人数をかけて挟み込まねば、いや挟み込んでもやられてしまう。

こちらが攻めに転じようとしても、見木がジェジエウに強烈なヘディングで吹っ飛ばされ、サウダーニャは老獪なシミッチの守備に前を向くことが出来ない。

川崎の圧力の前に、ボールを奪われ、組み立てられ、シュートも撃たれたが、前半は幸い致命的なシュートを枠内に撃たれる事は無かった。
川崎も、連戦、海外遠征の疲れが溜まっているのではないだろうか。
正直、ACLで見せつけられたような、絶望的な怖さは無かった。

川崎のコンデシションもあったし、ジェフの守備陣もいつになく身体を張って守っていた。
中でも、ミンギュの奮闘は強烈だった。過剰とも言えるくらいに、身体を当て、掴み、投げ出す。その髪は、見た事も無い金髪。なるほど、そう言う事か。王者・川崎とぶつかるこの試合で、自分と言う存在を貪欲にアピールする心づもりか。
「俺を獲れ」と、この試合を見ているだろう、ほうぼうの強化担当者に向けて。

やや省エネ気味にも感じる川崎と、気合は入っているものの、プレッシャーのかかっていないシーンで安易なミスをするジェフ。鈴木椋大のキックも不安定で、前半は0-0で終えたものの、試合内容としてはテンポが上がらない低調なものだった。


が、日も暮れた後半。
試合はがぜん、熱を帯びる事となった。

後半の川崎がややギアを入れ、試合が南側(川崎側)ばかりで展開するなと思っていた矢先の53分、ボールカットから、サウダーニャが左サイド深くでボールキープ。奪われそうになりながら、いったん見木に預け、そこから中の船山へ。この見木のパスが良かった。船山はDFを背負いながらキープし、ポジションを上げた見木が船山からボールを再び受け、左足でシュート。
これが決まって、なんとジェフが先制する。

スタンドのジェフサポ、大いに盛り上がる。
「あれ、もしかして行けるんじゃないか?」
フクアリを妙な空気が包み始めていた。

ただ、そこは修羅場を重ねて来た川崎。
空気に呑まれる事なく、6分後の59分にはPKで同点とする。
しかし、ジェフを突き放すことが出来ない。

時間の経過とともに、川崎には僅かながら焦りが。
逆にジェフには、今日の川崎は全くどうにもならん相手では無さそうだと言う確信が芽生え、運動量が上がり、プレッシャーが激しくなる。普段からそうじゃないと本当は困ってしまうんだが、川崎と言う相手がジェフのポテンシャルを徐々に引き出してゆく。

今日の観衆は4553人だったが、ジェフサポが半数とすれば2000人強だろうか。
が、それだけとは感じられない手拍子が、フクアリの屋根で増幅され、ジェフの数少ない攻撃時に降り注いでくる。

川崎は、71分、谷口と大島を投入。
ジェフからすれば、彼らを出さざるを得ないほど、手こずらせる事が出来た感がある。
同じタイミングで、ジェフも三枚代え。福満、矢田旭、ソロモンを投入。
運動量を補う。

接触プレーからのリスタートの処理でジャッジが揺れ、一瞬空白が出来た時間帯もあったが。そこですかさず、ベンチの新井章太から、気を引き締めるように、「ここから!ここから!」の声が飛ぶ。

AT6分もスコアは動かず、延長戦へ。

延長戦前、フクアリの空気がザワつき始める。

川崎からは、延長戦に持ち込まれてしまったという、驚きであったり、仕留めきれなかったと言うリズムの悪さへの当惑であったり。天皇杯と言う舞台の奇妙さ、居心地の悪さであったり。

ジェフからは、王者に流れの中から点を奪われなかったと言う自信、手応えや、延長戦まで持ち込んだ事への高揚だったり、勝利への期待であったり。

天皇杯独特の、そういうないまぜになった空気が延長戦のピッチを覆っていた。

川崎が立て続けのセットプレーから放った渾身の一撃を、交代出場の壱晟がライン手前でスーパークリアをした瞬間、空気が明らかに変わったのを感じた。

そして、延長後半。

交代出場した、ソロモン、岩崎、福満、矢田旭らが遮二無になって攻撃を仕掛ける。
これは、もしかして、川崎の足が止まっているんじゃないか?リーグ戦と、ACLを闘い、疲労困憊の川崎の足が、物理的に動かなくなり、反対にジェフの足は「やれる」と言う確信と共に、運動量を増し、その15分間だけは川崎を上回る事が出来ていた。

スタンドの手拍子と一体になり、劇場の空気の中、攻める事は出来た。
ただ、それは惜しい止まりで。決定的なシュートを放つまでには至らなかった。

延長後半は、AT無しで終わり、120分を終えて1-1のドロー。
試合はPK戦決着となった。

PKは、南側(川崎側)で。
川崎の選手が全員決めた一方で、ジェフは岩崎が外し、アンドリューが止められ、4対3のスコアで敗戦。川崎は、PK戦も極めて冷静だった。チキンゲームよろしく、同じ方向にばかり決めていく川崎。鈴木椋大は逆をつかれて、触る事が出来なかった。

ジェフは、120%、150%の力を出し切っても、敗戦。
川崎は、内容は本意で無くとも、勝利と言う結果を手にする。
そこが、現在進行形の王者たる所以なのだろう。

どれだけ力の差があったとしても、負けは悔しい。
それ以上に、川崎と戦うことがイベントになってしまうくらい、J2に長居している現状が悔しく、情けない。フクアリに観光気分でやって来た川崎サポ。王者のサッカー、選手を観られると興味津々のジェフサポ。

彼我の15年の歩みに思いを馳せると、本当に悔しさしかない。
川崎と戦うことが、特別な事ではないクラブに戻らなくては。

120分、流れの中で失点しなかったことは自信を持っていい。
後は攻撃だ。一歩一歩、歩みを早めて強くなろう。
五輪中断明けの山形戦。川崎と言う「物差し」で測れば、十二分に戦えるはずだ。