今後の指針になるベストゲーム 2021 J2第27節 vs長崎 〇2-0

今後の指針になるベストゲーム 2021 J2第27節 vs長崎 〇2-0

2021/08/28(土)18:00
フクダ電子アリーナ
J2第27節
千葉 2(1-0,1-0)0 長崎

<得点>
13分 千葉 40櫻川(20矢田のCKをヘッド)
90+7分 千葉 10船山(相手ボールをカット。田口、見木と繋ぎスルーパス。)

千葉公式
Jリーグ公式


尹晶煥監督就任後、ベストゲーム。

これまで3歩進んでは2歩戻る感じで、なかなか改善がみられなかった攻守の切り替えが、五輪中断明けから劇的に噛み合って来た。
特にこの長崎戦は、90分間を通して狙い通りの戦いが出来ていた。
手応えを得ながらも、勝つ事が出来ていなかっただけに、この一勝は、監督、選手にとっても大いに自信になっただろう。

スタメンは、ここ三試合同じメンバー。
ソロモンが前線に入り、プレスのスイッチを入れ、その後ろに見木と旭、両翼に末吉と福満が開き、田口とアンドリューが中盤の底を締める。最終ラインには、左から鈴木大輔、チャン、新井一耀。キーパーは、新井章太。

対する長崎は、ここ5試合負けなし。
ただ、8/18の天皇杯・鹿島戦をホームで戦ってから、8/22、25、28とアウェイ三連戦。真夏に11日間で4試合をこなし、移動距離も長く、おそらく疲労はピーク。その事は、試合内容を振り返る上で、きちんと踏まえておきたい。


昼間の蒸し暑さが残るフクアリ。
残暑は厳しいが、日もだんだんと短くなって来た。
キックオフ直前には、大きな夕日が製鉄所の陰に沈んでいった。


鈴木大輔選手の200試合出場セレモニーを挟んで、18時過ぎにキックオフ。
この試合もジェフは、前から前から、ソロモンを急先鋒に相手をプレスで追い込む、攻撃的な守備を仕掛けていった。DFラインも高く維持され、プレーエリアがコンパクト。各選手が連動して、相手の出しどころを限定しつつ、網を潜り抜けようとする縦パスには、ファウルも辞さない厳しい守備で臨み、プレーを寸断する。

ボールを奪い取ってからも、各段に次の動きが早くなった。
安易なバックパスが少なくなり、ラインを下げずに相手を押し込む。
尹晶煥監督になってから、ブロックを固めて後ろで守るのがセオリーだったが、固めたブロックごと前へ前へと圧力をかけている。まるで城砦が動いているかのようだ。

特筆すべきは、再三再四みられたDFの攻撃参加だ。
高いラインを維持したまま、最終ラインの選手が前線に絡んで来る。

例えば。
38分には、ソロモンのポストからパスを受けた旭がダイレクトへ右へ。
右のライン際を駆け上がった福満の「内側」を新井一輝がオーバーラップしてボールを受けてゴールを窺う。

さらに41分には、ボールを回しながらソロモンがポストとなり、ゴール前まで駆け上がったのは鈴木大輔だった。

本来なら「後ろにいるはずの」選手が、相手選手の守備の想定を上回って攻撃へと参加する意外性。それが単発のものではなく、90分間、チームの選択肢として常に意識されていたのが、これまでとの大きな違いだった。

運動量と出足で上回り、DFも前線に絡む。
こうなると、あらゆる局面でジェフの選手の方が多いかのように見える。

先制点も、複数の選手が絡んだチャンスから奪ったCKからだった。
11分、ミンギュが前線のソロモンに縦パスを送り込む。それをワントラップして、右の旭、さらに福満へとラグビーのようにパスが繋がり、福満のクロスには、見木が合わせる動きを見せた。(このシーンでも福満の大外に新井一耀が攻撃参加している)


そうして、旭が左足で送ったCKは、シンプルにソロモンの頭に。
高さ、強さと言うソロモンだけの武器を「使い切った」理想的な一撃だった。
前節、甲府戦のラストプレーの悔しさを挽回する、フクアリでのプロ初ゴール。


この試合、プロになってからこれまでで最も、ソロモンの良さが表現された試合ではなかっただろうか。ゴールだけでなく、前線からのプレス、身体を活かしたポストプレーで、「時間」と「スペース」を作る働き、さらには縦パスを受け反転、3人を引き剥がしてシュートまで持ち込む足元の器用さも見せた。


先発起用されるようになって、3試合目。
チームも、彼自身も、その良さを活かせるようになって来た。


首尾よく早い時間に先制点を奪ったジェフ。
勢いのままに長崎を押し込み追加点を狙うものの、ここで立ち塞がったのが長崎の守護神・富澤。CKのこぼれ球を狙いすました末吉のカーブをかけたミドルシュート、件のソロモンが囲まれながら引き剥がして放ったシュート、さらにはCKの流れから、鈴木大輔が至近距離から押し込もうとしたシーン。ことごとく彼が止め、点差が開くことを許さない。

先制点は奪っているものの、これだけ決定機が防がれてしまうと、空気は決して良くはない。長崎のチャンスも決して無いわけではない。素早い判断からのコースを衝いたミドルシュート、あるいはエジガル・ジュニオの個の力。
前半は、手ごたえを感じながらも、油断のならない空気を孕んで終わっていった。


後半頭からの交代は無し。
ペースは変わらずにジェフ。

51分にはソロモンのポストを見木がミドル。
左に流れたところを旭が頭で落とし、最初のチャンスを作る。

後半、さらに目立つようになったのは田口と見木の関係の良さ。
以前は田口が右で、アンドリューが左のボランチに入っていたと思うが、田口が左に居て、見木と交わすパスのテンポが抜群に良い。その田口からは、送り出される縦パス。これが、相手の急所を次々に抉っていく。

彼ら二人に限った話では無いが、総じてこの日のジェフは選手の距離感が良い。
ピッチ全体にバランス良く選手が居て、隣の選手に預けるだけの、無難な各駅停車のパスだけで無く、一つ先の選手への快速のパスや、大きくサイドを変えたり、前線のソロモンに一気に放り込む、特急のパスなどが使い分けられていた。

観ていて、心地良さを感じたのは、スタンドから観ていて「あそこに出せば良いのに」や「いま撃てば良いのに」と思うシーンで、そう思った以上のプレーを選手が出来ていたからだった。

『攻守が切り替わった時、選手の意識の矢印の向きが揃っている。』

ただ、その一方で追加点はなかなか生まれない。
前半の決定機と合わせ、体感的には、3-0くらいの錯覚に陥るような展開。
が、スコアは1-0のまま動いていない。試合の行方は全く分からなかった。

しかし、今日のジェフは長崎に「流れ」を渡すことは無かった。
その理由。尹晶煥監督の交代策は、先手でしかも的を得ていた。

65分、プレスのトリガーを担っていたソロモンをサウダーニャに交代すると共に、旭に代えては船山。前線の運動量を補充しつつ、タイプの異なる選手の投入で長崎の対応をより困難にする。

交代直後、サウダーニャが顔見世とばかりに自陣深くまでプレスで追いかけ、カイオ・セザールをアンドリューが挟みこんでボールを奪う。すると、パスを回された田口が、意表をつくヒールで敵陣に向け駆け出していた見木にスルーパス。見木はさらに右の船山にボールを展開する。

中央ではサウダーニャが一気に駆け上がってボールを欲しがり、それを囮に船山が中へと切れ込んでシュートを放つ。ブロックされたが、この鋭いカウンターは、長崎の重心を再び後ろ向きにさせ、反撃の機会を削ぐ事になった。

68分には、福満に代えて安田。
76分、足を攣ったアンドリューに代え壱晟。新井一耀に代えて岡野。
最後の交代でゲームを締めにかかる。

以前のジェフであれば、残り15分で1-0の状況であれば、ブロックを下げて専守防衛に切り替えていた。そうすることで、相手の反撃を呼び込み、圧力に屈して、同点、あるいは逆転まで許す事もあった。
が、今日は最後まで攻め続けた。時間稼ぎはATの最終盤まで行わず、攻撃は最大の防御と言わんばかりに圧力をかけ続けた。

疲れ切った相手にサウダーニャのスピードと運動量、即興性はてきめんだった。
中途半端なボールをキーパーの前まで追いかけ、はるかゴールが遠い位置からも、狙いすましたシュートで長崎の肝を冷やす。


長崎も反撃を試みるものの、それよりもジェフの手数が多い。
89分には、田口がダイレクトで右の安田に展開し、クロス。エリア内で手に当たっていたが、ハンドの判定は無し。
どうしても「トドメ」を刺す事が出来ない。

そうして迎えたATは、なんでこんなに長いのか6分間。
が、その最後の最後にもう一つの歓喜が待っていた。
90「+7」分、相手のスローインからボールを奪い、田口→見木と繋ぎ、糸を引くようなスルーパスが、エリア内に駆け込んだ船山に送られると、間髪入れずに放たれたシュートはゴールを揺らしていた。2-0。


ベンチの仲間にもみくちゃにされ、成田の漢の笑顔が弾け、スタンドからは手拍子が降り注いだ。

試合は、そのまま終了。
尹晶煥監督の試合後の言葉通り。ほぼ完璧な試合内容だった。

長崎に、疲労の色が濃かった事は否めない。
休養十分であったなら、ここまで90分間、思い通りに試合を運ぶ事は出来なかったろう。
が、それにしてもだ。

ここまで整ったゲームを観るのは、いったい何時以来なんだろうか。
五輪中断前まで、なかなか攻撃面でブレークスルー出来ず、感じていた停滞感を一気に払拭するような試合内容だった。

が、ジェフが急に大きく変わったとは思わない。
むしろ、これまで少しずつ積み重ねていたサッカーが実を結び始めたようだった。
中断開け初戦の山形戦こそ、先制点を奪えないうちに逆に先制され流れを掴み切れなかったが、ドローに終わった新潟戦は、あとは得点だけと言う内容。甲府戦も終盤に追いつく粘りをみせ、逆転勝利まであと一歩まで迫った。

ベースにあるのは、尹晶煥監督が就任時からチームに植え付けた守備。
それが、レベルアップを重ねて、ようやく攻撃と一体化しはじめた。
それと共に、眠っていた各選手の個性も、チームとして引き出せるようになりつつある。

「このサッカーでいい」と、監督、選手ともに自信を持てた事が、何よりの収穫だった。
ここから先は、対戦相手がどこであっても、誰が出ても、カタマリ感のあるサッカーが出来るように、プレーの強度を高めていく事になるだろう。

何よりサポとして良かったのは、今日のサッカーが楽しいと思えたこと。
専守防衛、とにかく1点獲って、籠ってカウンター。
最後は15分でも20分でも耐えきって勝つと言うサッカーは、チーム作りの過程であって、武器の一つ、あるいは部品の一つなんだと確認できた事が良かった。

試合に出られていない選手も、今日の内容を観れば、目指すものが明確に見えただろう。
チームに一本の筋が通ったように感じた久しぶりの快勝劇だった。