拾った勝ち点1の意味は-第29節・新潟戦-

拾った勝ち点1の意味は-第29節・新潟戦-

081018_sakamoto千葉 0(0-0,0-0)0 新潟

拭い難い、温い空気が試合前から流れていた。
5連勝、それも強敵を撃破してのもの。ジェフに対する世間の評価はすこぶる高かった。
「今、Jで一番勢いのあるのは千葉。」「後半戦だけなら優勝争い」「J1残留も問題なし」・・・それらは、まるでジェフを緩ませる策略のようにすら感じるほどだった。

本当にそうなのか?この連勝中、簡単に勝てた試合などあったか?
ギリギリいっぱい、それを出し切ってようやく積み重ねた勝ち星。それでも、自動降格圏との勝ち点差は、わずかに「1」。余裕をかませる訳が無い。勝つしかない。勝つしか。
そう気持ちを引き締めてこの試合に臨んだはずだったが。。。しかし、一度緩んだ気持ちは、簡単には引き締める事が出来なかった。

違和感を感じる。スタジアムを包む、まったりとした空気。
開場しても、拭えない違和感。呼びかけにも、どうしても空気が熱ならない。
なんなんだ、この感覚は。

その時、新潟の大声援が始まった。なんと言うか、ヤバイ感覚を受けた。腹の底にグワっと来る声援。音量だけなら、浦和の方が大きかっただろう。けれども、声援を根っこで支えている思いのようなもの、それが違った。例えるなら、村井・茶野が移籍して初めてのヤマハでのジェフの声援のような。
言わずもがな、因縁のある今季の両チーム。この声援、相手がジェフでなければ、出る声ではあるまい。
なのに、それを耳にし見せ付けられてもジェフ側の空気は。。。

「WIN BY ALL!」のコールの隙間から聞こえてくる新潟の声援。
それは、ホームの声援が新潟を完全には圧倒出来ていない証でもある。
この空気。選手には、如何に伝わったのか。


フィールドの戦いでも新潟は徹底的なジェフ対策を打って来た。
まずメンバーを見てみる。
ジェフの布陣は、浦和戦と同じ。自ら仕掛けるホーム用のベストメンバー。

-----巻-----
谷澤--ミシェウ--深井
--下村--工藤--
良太-エド-池田-坂本
----岡本----


対する新潟の布陣。
キーマンのマルシオ・リシャルデスを欠く布陣。
しかも、この試合の開始1分で左SBの松尾が負傷してしまった為、中野が急遽3分から出場している。
しかし、アクシデントにも関わらず、新潟は、しっかりとジェフ対策を遂行して来た。

-アレッサンドロ-矢野--
松下------河原
--本間--千葉--
中野-千代-永田-内田
----北野----

端的に言うなら、新潟の作戦は「引いて守ってカウンター」。
これが面白いようにズバリはまった。

まず、ラインを深くし、ジェフの攻めをじっくりと受ける。
守りのポイントは3つ。「両翼=谷澤/深井」、「ミシェウのキープ」、「巻へのロングボール」それぞれを潰すこと。
そして、ジェフの基点を、カウンターの基点として、前へ前へシンプルに攻める。

これだけだ。

こうなるかも知れない事は、試合前から予想は出来ていた。
当然、選手達も、こう言う展開も頭には入れていただろう。けれども、この日は、それを上回る打開策を表現できなかった。まともに討って出て、何度も同じ形で潰され、激しいプレッシャーの中でミスを連発する。これまで攻撃を牽引してきた深井も谷澤も不発。
5連勝が始まって以来、初めて「集中力」「出足」で遅れを取っていた。

新潟には、対策だけでなく、それを遂行できる理解力も体力も備わっていた。

ジェフボールになっても、前へ送るスペースが無い。
闇雲に放り込めば、囲まれて、奪われて、拾われて、カウンターを当てられる。その繰り返しが試合を難しくしていた。
全くチャンスが無いという訳では無いが、少ないチャンスにもミスが付き纏う。
低調な展開に、スタジアムもなかなか火が点かない。この連勝中、どれだけ、選手達の頑張りに、応援が助けられていたかとも思う。そう思っても、なかなか火の点かないホームの応援がもどかしい。悔しい。


後半になり、ミラー監督の檄の効果に期待するも。
動きは重いまま。深井のクロスでも、谷澤のドリブルでも、今日は思うように前を切り開けない。深井の切り替えしが、クロスが、何度も目の前で止められる。決定機も数えるほど。シュートを打つことすらままならない。

逆に、危ういシーンはどんどん増える。
岡本と、エドの連携ミスから無人のゴールにシュートを打たれたときには、もうダメかとも思ったが、エドが何とか落とし前をつけてクリア。さらに、アレッサンドロの完璧なヘディングを岡本が、スーパーセーブの二連撃で止めてみせる。
「よっしゃ!ぐぴお!よくやった!」

悲鳴が、安堵のため息に変わる。
流れは変わらない。流れを変えられない。
けれども、最後の一線は割らせない。

時間は過ぎ、ロスタイムに入る。3分。
目の前に、去年の小瀬の幻影が揺らめく。6連勝の最後は、孝太のダイビングシュートだった。あの歓喜を、思い起こして、泥臭くって良い。内容なんか無くっても、とにかく勝ち点3をフクアリで獲れ!まだ時間はある。声の限りを尽くす。

こんな時間になって、ようやくバックとメインに火が入る。
割れんばかりの手拍子。頼むよ、皆、最初からコレをやってくれよと思ってしまう。
詮無き事だが、思わずにはいられない。

最後の最後、工藤がゆっくりとタメたボールがゴール前へと送り込まれる。巻が、懸命に頭を叩きつけようとするが、寸でのところで届かない。直後に笛。
小瀬の幻影は、現実の前に消え去った。


正直、負けてもおかしくない内容だった。ほとんどの時間、新潟の方が上回っていた。
本当にハメられた感じで、ぐったりと疲れてしまう。守りきれたのは、新潟の決定力不足と、岡本のセービングによるもの。負けなかった事を、勝ち点「1」を守ったことを、収穫とするほか無い。

試合後の、フクアリの何とも言えない空気。
5連勝の夢から覚めたのか、ようやく緩んでいた空気も霧散していく。
東京Vが勝利し、順位は15位に落ちた。勝てなかった現実。残り5試合と言う現実。

思い出さなくてはならない。9年前に何があったのか。
99年、残り5試合で何が起こったのか。
追われる、あの時とは逆の立場で。

「まだ何も終わってないぞ!」
誰かの声が聞こえる。
そうだ。勝負はこれから。それを、このドローが思い出させてくれた。新潟戦は終わったことだ。
「ここまで来たんだ、J1残留が決まるまでやるしか無いだろ」
下を向いている時間なんてあるか。
泣こうが喚こうが、残りは5試合。
俺達なら出来る。俺達が生き残る。

この日、かろうじて拾った勝ち点「1」。
これを意味あるものに出来るかどうかは、俺達、ジェフの戦い抜く意思だけだ。