『補強』された遠藤の重み 2020 J2第37節 vsジュビロ磐田 ●1-2

『補強』された遠藤の重み 2020 J2第37節 vsジュビロ磐田 ●1-2

2020/11/29(日)14:00
フクダ電子アリーナ
J2第37節
千葉 1(0-2,1-0)2 磐田

<得点>
21分 磐田 24小川(14松本のクロスを、攻撃参加した24小川が右足ダイレクト)
40分 磐田 50遠藤(24小川の折り返しを23山本がスルーし、50遠藤が左足ダイレクト)
58分 千葉 21アラン(4田口の縦パスを39見木が受け、21アランへスルーを通し振り抜く)

千葉公式
磐田公式
Jリーグ公式

2点を奪われて臨んだ後半、
フレッシュな選手で1点を返したものの、同点、逆転は遠い展開だった。

今日に関して言えば、スタメン選びにおける選択肢の少なさ、
そして前回の対戦の際には未加入だった遠藤をそもそも対策するつもりがあったのか、疑問の残るゲーム運びになってしまった。


本来であればリーグ戦は終了している11月末。
コロナの影響で予定が大きく狂わされたため、この日に試合が組み込まれた。
ゴール裏にはケンペスの幕が掲げられ、ビジョンでも彼の死を悼む映像が流された。
痛ましい事故から、既に4年。あんな出来事がなぜ起こったのか、悔しくてならない。

アウェイ席が売り切れとなったフクアリ。
磐田サポのおかげもあって、久しぶりに5千人を超える観客がスタンドを埋めた。


スタメンは前節から大きく変更。
攻撃陣はターンオーバー。

最前線には山下と川又が久しぶりに復帰。
中盤も田口以外の3人が変更となり、堀米→旭、アラン→見木、アンドリュー→小島が名を連ねた。メンバーの選択肢が少ないと感じるのはボランチだ。稼働可能なメンバーで、守備に重きをおいたボランチは、アンドリューしかおらず、田口を軸に据えると、誰と組ませても攻撃を得手とする選手2人を組ませる事になってしまう。

「中盤でボールを刈り取れるか」は、アンドリューが居るか、居ないかで、大きく変わって来てしまうのがジェフの現状だ。


前半のキックオフ。
雲が多く、西日の影響は今日はほとんどない。


磐田の中盤には、ガンバから期限付きで加入している遠藤保仁。
いわずもがなの名手だ。

彼がどんな動きをするのだろうと、何気なく目が彼を追っていた。
試合の入り自体はジェフも悪くない。ボールを奪うことが出来れば、シンプルに前を目指し、形を「つくりかける」が、精度を欠いて、決定機には至らない。

対する磐田は、ボール回しが丁寧で、いったん奪われるとなかなか回収できない。
磐田ボールになった時、ジェフは4-4-2の3本のラインを敷き、その内側のゾーンを監視して、中に侵攻させないように陣を構える。

周囲をボールが回っている時、遠藤は、常にポジションを変えながら動く。
プレスをかけられた選手の少し外でボールを受け、叩いて別のフリーな選手にボールを供給したり、DFラインまで下がって、前線をチラと俯瞰した上で、一気に前線へロングボールを送り込んだり、そうかと思えば、そのボールが弾かれた落下点にもう駆け上がっていたりする。

ピッチ全体を前後左右、「居て欲しい」ところを埋めるように彼がいる。
まるで彼がいる事で、角ばったボール回しが流線型の滑らかなラインになっているかのようだった。

「遠藤を気持ちよくプレーさせ過ぎだ」と、不安めいたものを感じていたとき、
それが失点となって現実のものとなる。

前半21分、ちょうど座っていた席の目の前で磐田が何度かボールを繋ぎ、揺さぶりをかける。ゲリアが引っ張りだされて空いた右サイドの一番深いスペースに山田→松本とボールを通され、ゲリアの寄せも間に合わずにボールを折り返されると、ダイレクトで攻撃参加した小川大貴に合わされ、あっさりと失点してしまった。

この時、ジェフのディフェンスは枚数は揃っているにも関わらず、クロスボールを上げる松本に意識が集中してしまって、小川には誰も寄せに行っていない。
ディフェンスの小川が、ここまで上がってシュートを撃つ想定が出来ていなかった。

先制した事で磐田にはさらに余裕が生まれる。
遠藤を中心に変わらず丁寧に繋ぎながら、時折テンポを上げて、チャンスを窺う。
何か特定のパターンに頼る訳でなく、サイドから崩す事も、一本のパスで来ることもある。が、共通しているのは、様子窺いから「崩すぞ」とギアを切り替えるパスを出す選手に、ジェフがプレッシャーをかけられていないところだった。

そうして40分。
今度は、左サイドを崩される。
お手本のようなワンツーで小川大貴に突破され、ペナルティエリア内まで侵入され、折り返されると、山本康裕がスルーした後ろから、「遠藤」が左足でコントロールショット。
敵ながら、素晴らしく美しい崩しとフィニッシュだった。

そこから、前半終了までの5分間が問題だった。
ピッチの中で、明らかに諦めている選手と、まず1点を返そう、何とかしようとしている選手にプレーの温度差を感じた。後半、「物理的に」選手を交代しなくては意識を切り替える事は出来ないと思わざるを得なかった。


迎えた後半、尹晶煥監督は3人の選手を交代する。

小島 → 熊谷
矢田 → アラン
川又 → クレーベ

この交代で流れは大きく変わった。
2点を奪い返す為に、前がかりになったジェフは、熊谷を中心に中盤で接触も厭わずにボールを奪いに行き、奪ったボールを、アラン、クレーベと、キープが出来るブラジル人2人に預け、「間」を作って周囲の攻撃参加を促す。

48分、交代が早速得点に結びつく。
田口がセンターサークル付近でボールを受け、速攻。
見木に縦パスを通し、その見木がドリブルで前に運びながら、右前方に走り込むアランへ左足でスピンのかかった丁寧なパスを通すと、受けたアランが豪快に振り抜いてゴールへ突き刺した。

この時点で残り時間は40分以上。

前半に比べ、バランスは明らかに良くなった。
それは守備の出来る熊谷が中盤に入った事が重ねて大きい。
連動して、山下や、見木のプレスも活きるようになった。
そして、良い位置でボールを奪えれば、ハーフカウンターも狙える。

中でも、出色のプレーを見せていたのは見木。
アランのアシストだけでなく、ジェフ側の決定機の悉くに絡む活躍を見せていた。
「自ら打開する」意識が彼からは見える。パスを出すにしても、ドリブルして、状況を少しでも良くして、あるいは相手の寄せに耐えて耐えて。それからボールを繋ぐ。
その球にも「こうシュートを決めて欲しい」と言う意思が込められ、強いボール、味方が受けやすくなるスピンがかかっていた。
やはり、彼はボランチではなく、前の方が個性が活きる。

同点、逆転を狙うジェフは、前に出るしかない。
その一方で、磐田は失点しても大きく崩れる事はなかった。
たしかに、前半よりは押し込まれていたろう。

しかし、リードしているのは磐田であり、無理する必要は無いという落ち着きがチーム全体にあった。強いプレッシャーを受けても、遠藤にボールを預ければ、ボールは落ち着く。
前半の遠藤は、潤滑油として。
後半の遠藤は、試合を締めるクローザーとして。
いずれも司令塔の役割を全うしていた。

実際、磐田のプレーにはミスが少ない。
逆にジェフは中心となるべき田口が、安易なミスパス、あるいはヒールパスでボールを奪われたりして、自ら流れを失うシーンが散見された。正確なボール回し、余裕のあるボール回しが出来ていないから、そういうミスに繋がってしまうのだろう。

ジェフは
68分に山下に代えて船山。
89分には、見木に代えてチャンを投入。

熊谷が出場しながらも最後までキャプテンマークを巻いた鳥海が足でボールを挟んでキープし繋ぎ、無理は承知でオーバーヘッドを狙ったクレーベが天を仰ぐ。
個々の選手の頑張りは分かるのだが、前半に奪われた2点の代償は重く、追いつく事は叶わなかった。


またもフクアリで敗戦。
勝利は、琉球、松本、岡山、金沢の4試合しかない。
この悔しさをどう表現すればいいかわからない。

強調しておく。
本来ホームでは、一つとして負けてはならない。
相手が強かろうと、自らの状態が悪かろうと、一切関係ない。
ホームスタジアムとは、「そういうもの」だ。
「そのためのプレー」を見せる場所だ。

その上で、勝つときも負ける時もあると理解して、応援する場所だ。
この情けない現状に絶対に慣れてはいけない。

それにしても、遠藤。
ポジションは違うが、ジェフに智が帰って来た時と重なった。
彼がいる事で、周りの選手の力が引き出され、チームに落ち着きが生まれる。
それだけに。
もう少し、対策を練って臨んでいたなら、別のスタメンを組んでいたなら、ここまで彼に自由にタクトを振るわれる事は無かっただろう。悔やまれる前半だった。

そして遠藤を見て、試合になかなか絡めない寿人や浩平の事を思った。

遠藤は、年齢に関係なく、チームに必要とされて、ピッチに立っている。
寿人だってピッチに立ちさえすれば、結果を出せる力がある。
しかし、エスナイデル監督の下でも、江尻監督、尹晶煥監督の下でもなかなか居場所がない。浩平もまたそうだ。あるいは米倉も。チーム作りの『軸』が容易にブレるジェフでは、お金をかけて補強しながら往々にしてこう言うミスマッチが起こる。全くもって不幸な事だ。

『補強』とは、チームに選手を加えれば良いというものではないだろう。

遠藤のように、かつての智のようにピッチで力を発揮してこそだ。
言うまでもない。
ピッチで輝く遠藤の姿を目の当たりにして、その当たり前を改めて問いかけられたようだった。

高橋GMの退任が発表され、チームは既に来季への準備に取り掛かっているだろう。
『補強』が『補強』として機能し、選手の力がジェフで発揮されるよう、『軸』を確り定めてチーム作りを進めて欲しい。そう願わずにはいられなかった。