「伸びしろ」を見せた開幕戦 2021 J2第1節 vsヴァンフォーレ甲府 △1-1

「伸びしろ」を見せた開幕戦 2021 J2第1節 vsヴァンフォーレ甲府 △1-1

2021/02/28(日)14:00
フクダ電子アリーナ
J2第1節
千葉 1(0-1,1-0)1 甲府

<得点>
45+1分 甲府 15中村(荒木の左クロスを中央で受け、熊谷と鈴木をステップでかわしてシュート)
57分 千葉 37ブワニカ(安田の左クロスを頭で合わせる)

千葉公式
甲府公式
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球春到来。
2月だと言うのに、日焼けを気にしなければならないような強い日差し。
久しぶりのフクアリは、芝生も美しく整備され、最高のコンデションで開幕を迎えた。

コロナ禍の影響がいまだに続く。
アウェイ、甲府のサポーター席は設けられず、観戦を自粛したジェフサポも居たし、ジェットスフィーンのパフォーマンスも無かった。試合前に森本社長が触れていたように、スポンサーの多くも苦しい経済状況の中にある。

そうした中でも、こうしてまた新しいシーズンを迎えられた事に、心から感謝したい。
当たり前と思っていたことが、そうでは無かった事を噛みしめて、今年一年間また応援をしてゆきたい。

それにしても、これほど開幕前にチームの状況が伝わって来ないシーズンは無かった。
キャンプも、千葉に戻ってからの練習も、練習試合も非公開。
「攻撃的な守備」と言うキーワードが先行しているものの、その実はヴェールに包まれていた。

11時45分頃、スタメンが判明。
まずまず事前の予測通りと言えなくも無いが、怪我の新井章だけでなく、田口、川又と言った昨年までの主力の名前が無く、新加入の小林、伊東、復帰の溝渕の名前も無い。

それでいて、このメンバー・・・引退した、寿人、増嶋、田坂のような「華」は無いとは言え、実に手堅い面子が揃っている。スタメンどころか、ベンチ入り争いは、今年も熾烈を極めそうだ。そして、その中に、ブワニカ、松原の両ルーキーが名を連ねているのは、実に頼もしい。

対する甲府。
相変わらずオミがチームを束ね、そして前線には金井。3-4-3。
元々、DFながら攻撃的な性格の強かった彼を、割り切って前線で使って来るあたり、伊藤彰監督はしっかり選手の特性を把握している。

キックオフは14時。
大槻、岩崎、福満、鈴木大輔と、4人の新加入が加わったにも関わらず、円陣ダッシュは美しい円を描いた。これは、良い準備が出来ているのかも知れない。

ジェフは最前線に船山と大槻。両翼に岩崎と福満。
新加入選手が多く前線に並ぶ。一見して機動力は格段に上がった。大槻、福満、岩崎が、前からもよくボールを追う。引いてブロックで守るのではなく、「狩りに行く」守備の一端を序盤から垣間見る事が出来た。

が、その一方でクロスに合わせる、あるいは高さ、強さで前線の起点となる、クレーベのような選手はいない。ボールを奪っても、そこから先の選択肢が無い。
奪っても、奪い返される事が多く、なかなかゲームが落ち着かない。
前半は攻めの形をほとんど作れなかった。

一方、最後尾には、久しぶりの出場となる、鈴木椋太。
バックパスを単純に蹴り返すのではなく、相手のプレスを引き付けてでも繋ごうとする。
公式ホームページのJEFTALKにあった鈴木GMの言葉通り、今年は意識的にGKも組み立てに参加させる狙いがあるようだ。ただ、その弊害で相手に詰められて、ピンチを招くシーンもあった。

前半、時間の経過と共に、甲府が徐々にペースを掴む。
ブロックで固めている時と異なって、前から奪いに行っている時は、選手が偏り、逆側にスペースが生まれる事になる。長いボールでスペースを狙われ、あるいは大きなサイドチェンジでプレスをかわされる。
金井のシュートに始まり、その金井が交代した後に入った野津田が、ぽっかり空いたスペースでボールを受け、フリーでシュートを放つも、ポスト。
相手のシュートミスに助けられたが、完全に崩されたシーンだった。

何とか、無失点で乗り切りたかったが、ロスタイムに失点。
ジェフの右サイドから崩され、中央でボールを受けた中村が、アンドリューと鈴木大輔のプレッシャーを受けながらも、細かいタッチでかわして、右足を振り抜く。これが決まって、ビハインド。アンドリューと、鈴木大輔はお見合いしてしまった感もあり、連携不足が失点に繋がってしまった感がある。

迎えた後半。
尹晶煥監督は、最初から2人を交代してきた。

福満に代えて末吉。
船山に代えてブワニカ。

ブワニカは、もちろんこれがJデビューとなる。
そのブワニカは、最初のプレーで強引にシュートを放つ。
物怖じしない姿勢が良い。

交代した二人は、いずれも更に「走れる」選手だった。
末吉は、それに加えてドリブルで仕掛ける事も出来る。
ブワニカは、前線からプレスをかけるだけでなく、185cmの身体と懐の深さ、しなやかさを活かして、ボールを収め、捌くことも出来る。これは正直、意外だった。高校時代にボランチもこなしていたというから、そこで培ったプレーなのかもしれない。

57分。
右の大外からの崩し。
そこから一列内側のブワニカがエリア内でボールを受け、応対するメンデスを反転してかわしてクロス。中央で大槻には合わなかったものの、左の大外で安田がボールを受け折り返すと、ポジションを取り直していたブワニカがファーでヘッド。
ゴールにボールを置くような、ふわりとしたシュートが決まると、スタンドは立ち上がり、手を叩いて大変な盛り上がりとなった。

一連のプレーに、ブワニカの引き出しの多さが詰まっていて、それにスタンドも魅了されたかのようだった。
この得点で、チームに勢いがついただけでなく、ブワニカもより固さが取れて、自由にプレーをするようになった。

役割が固定された点取り屋と言うわけではなく、お膳立てから、組み立てまで、幅広くこなす。あえて誰かに例えるならば、マリオ・ハースのプレーが重なって見えた。

逆転を目指すジェフは、前線の大槻、ブワニカ、末吉、岩崎が、機動力を全開にして相手を追い込んでいく。キーパーまで戻されたボールを、ブワニカが身体を投げ出して当てて見せたシーンには、再びスタンドから大きな拍手が沸き起こっていた。

次の交代は71分。
大槻から見木、アンドリューに代えて壱晟。

2月とは思えない暖かさで、ピッチで戦う選手は予想以上に疲労困憊だったろう。
フレッシュな選手を入れて、運動量をキープする。
が、同点後も、なかなか新たなチャンスは生み出せなかった。
手堅い守りを見せる甲府を崩し切る連携や、アイデアがまだ足りない。

逆に、最終盤にかけて、再び甲府の時間帯がやって来る。
90分、甲府のコーナーキック、こぼれ球を繋がれてシュートを撃たれると、ブロックに入った岡野の腕にボールが当たってしまう。PK、イエローカード。判定は覆られない。

鈴木椋太に対するは、前半ポストにシュートを当てている野津田。
ちょうど背にした横断幕と、スタンドのエンブレムが、クラブの全てを、今、鈴木椋太が背負っているかのような空気を作る。向かって右に跳び、伸ばした左腕一本で見事にセーブ。再び沸き立つフクアリ。

勝ち点1を守り、そして自らの存在意義を示す執念のセービングだった。

前半同様、長いアデシショナルタイムが残されていたが、両軍スコアを動かすことは出来ず。ホーム開幕戦はドローで終える事となった。

試合後のスタッツを見直せば、課題は明確。
シュートまで持ち込めず、チャンスの数だけ比較すれば、よくドローで終える事が出来たというべきゲームだったろう。どう攻め切るのかは、今後に持ち越された。

一方、繰り返しになるが、新戦力が加わって、チームの機動力はかなりフレッシュになった。これだけ前の選手が、最前線からチェイシングをかけて相手の攻撃を遅らせてくれれば、守備陣は余裕をもって対応することが出来るようになる。

とはいえ、「犬の生活」で西部さんが書いていたような、ミドルプレス、そしてハイプレスが場面場面で使い分けられていたかと言うとそうではなくて、ミドルプレスを飛ばして、ブロックで守るか、とにかく前の選手が追うか、両極端だったように見えた。

まだ新しい取り組みの消化には時間がかかるだろう。

この翌日、ユナパで山形とのTGが組まれていた。
メンバーを見ると、そこまで怪我人が多い訳ではない事が分かった。

昨年のように、週2試合の過密日程と言う訳では無いが、メンバーを組み替えつつ今年のチームが出来上がって行くことだろう。甲府戦、特に後半は、試合に出られなかった選手たちにとって、刺激になったのではないだろうか。

求められるプレーと、足りなかったプレーが分かりやすいゲームであったから。

その中で、ブワニカは、「足りないもの」を理解して「自分ならどうするか」を整理して試合に入ったように見えた。そういう、「準備」の出来る選手が、これから出場機会を増やしていくだろう。

始まったばかりだが、「伸びしろ」が楽しみになる開幕戦だった。