メッセージが伝わって来る試合 2023 J2第2節・モンテディオ山形戦

メッセージが伝わって来る試合 2023 J2第2節・モンテディオ山形戦

2023/2/25(土)14:00
フクダ電子アリーナ
J2第2節
千葉 1(1-1,0-2)3 山形

<得点>
19分 千葉 41小森(5小林のインタセプト→9呉屋のポスト→41小森ドリブル→シュート)
45分 山形 42イサカ
62分 山形 9デラトーレ
83分 山形 10チアゴ・アウベス

千葉公式
山形公式
Jリーグ公式

今季、どんなサッカーを目指すのか?
開幕前、小林新監督は頑なに情報を封鎖した。
その疑問への答えが、いま、目の前で展開されている。

前線からの強烈なプレス。
追い込み、囲い込み、相手の選択肢を潰し。
ボールを狩りとっては、縦に速いショートカウンター。
あるいはサイドに開いて、二枚刃のドリブル突破、クロス。

初めて目にするのに、どこか懐かしい。

昨年から大きくメンバーが入れ替わった訳ではない。
が、プレーは、驚くほどに大きく変わっていた。

前節、長崎戦の勝利から一週間。
ホームサポーターへのお披露目は、難敵・山形。
クラモフスキー監督が率い、3年目を迎える。ジェフは、ここ4シーズン勝利が無いという。それほどの苦手意識は無かったが、守りに徹して守り切れる相手で無いことは承知している。昨年はプレーオフに進出。今季のJ2でも昇格争いの中心になる可能性が高いチームの一つだ。

ジェフは、前節からスタメンが1人変更。
アンドリューがベンチからも外れ、小林がスタメン。
サブには、近藤、西久保、壱成が名を連ねた。

布陣は、3-1-4-2で配置しているものの、攻撃のスイッチが入った時には、選手が流動的に動き続けるのでシステムで語るのは大きな意味を持たない。
一方、守備時には左WBの矢口が最終ラインに入り、4-4-2に形を変える。時間帯によっては、右WBの末吉までが下がって、5バック気味になることすらあった。

キックオフと同時にジェフの最前線からのプレスが始まる。
DAZNで視た長崎戦と違い、その勢いの凄まじさが体感で伝わって来る。ボールホルダーに1人がプレスをかけると、当然それを避けて相手はパスで逃げるが、その選手に対しても最初のプレスをかけた選手が追いかけてプレスをかける。パスを受けた選手には、別の1人、2人がプレスに行っているので、たちまち相手は囲まれる事になる。

昨年までのプレスが、相手の攻撃を遅らせるために、アリバイのようなプレッシャーをかけていたのと違い、今年のプレスには明らかに、プレスの先に前線でボールを奪い、シュートを撃ち切る「殺意」が籠っている。

その囲みから逃げようと、近場にパスを繋ごうとするものなら、そこにはこの日、大車輪の活躍を見せた小林裕介が襲い掛かる。パスをカットし、あるいは身体を寄せて絡め、その次の選手にボールを繋がせない。

首尾よく奪い取れば、その勢いのままに、前線に打って出る。
自ら運ぶことも、手数をかけずに繋ぐことも。
そして、奪った瞬間に、何人もの選手が意識の矢印を相手ゴールに切り替えて、ショートカウンターを仕掛ける。

マンマークで連動したプレスは、オシム監督時代のようでもあり、カウンターの鋭さはベルデニック監督時代のそれのようにも感じる。「懐かしさ」を感じたのは、その「狩り」の有様に、当時を無意識に重ねていたからだろう。

「守り」から入るのではなく、「ゴールを奪う」ことに、出発点を変えた事で、選手たちの動きも見違えるように変わった。特に、末吉と見木は、身体を縛っていた鎖から解き放たれたようだった。

孤軍奮闘、単騎突破、限界ギリギリの危ういプレーぶりだった末吉が、連動したプレスのパーツの一つとして、その運動量をロジカルに活かして、相手の急所を抉っていく。

チームの一員として、攻撃よりも守備の我慢を強いられていた見木が、「10番」にふさわしく、前線の攻撃をデザインし、自ら裏抜けし、ゴールに向けシュートを振り抜く。

プレーから感じるのは解放感。
他の選手たちも、自らのプレーを楽しんでいるように感じた。
そして、それを明らかに山形は戸惑い、嫌がっている。
「なんなんだこれは」と。

先制点は、狙い通りの素晴らしいゴールだった。
プレスでコースを絞り、狭いエリアのパスを小林裕介がカットして前線の呉屋に間髪入れずに送ると、呉屋は技あり落としで、左前に抜けていく小森にボールを繋ぐ。相手が呉屋に意識が集中した隙に、ボールを受けた小森が速度を挙げてエリア内に持ち込むと、左足を振り抜いてゴールへ流し込んだ。

二試合連発。
ゴールまでの動き、ゴール後のパフォーマンス。
かつての寿人が重なったのは自分だけだったろうか。

この得点への貪欲さ、決めて見せる得点感覚。
試合後、彼自身が振り返ったように、決めるべきチャンスは他にもあったとは言え、撃つべきタイミングで彼は、必ずシュートを撃っている。躊躇することも、誰かに預ける事もない。それは、ストライカーだけが持つ、稀有な才能に間違いない。

先制後も、運動量を落とすことなく、さらに圧力を強めるジェフ。
が、時間の経過とともに、徐々に山形の動揺も収まって来ているようだった。
複数人でプレスをかければ、当然ピッチに選手の偏りがおき、穴ができる。
山形は時間をかけて身に着けた正確なボール回しと、そこから展開を変える事が出来るロングフィード。それを受けて、フィニッシュに持ち込むことが出来る「個」の力とが、チームの力として落とし込まれている。

回数こそ多くは無いものの、縦に一本、シンプルにボールを繋がれかけるシーンが散見された。左WB矢口が攻め上がった裏側、イサカ・ゼイン。
ただ、そうしたリスクは承知の上。相手に狙われれば、穴を塞ぐまで。通されかけるたび、矢口が身体を張って粘り強い守備で防ぎ、あるいは松田や他のポジションの選手がスペースに出されたボールを掻き出す。危険をゼロには出来ないものの、コントロールは出来ていた。

むしろ狙うは追加点。40分に差し掛かろうという時間帯。
鈴木大輔、新井一耀までが攻撃参加し、再び山形をこじ開けようとリスクをかける。
前がかりの裏を衝き、直後、山形はイサカ・ゼイン→デラトーレと繋いで決定的なチャンスを放つ。これが伏線だった。

43分、小林のボール奪取から見木が狙いすましてシュートを放つ。
手応え十分の一撃だったが、ファーポストを叩き、ゴールを奪うことが出来ない。
ボールを握り続け、波状攻撃。矢口のクロスが防がれたそのあと、山形・南からのロングフィードがイサカ・ゼインの足下へ。カウンター。
DFの枚数は揃っているものの、スタンドから、ゴールまでの道筋がえらくハッキリと見えてしまった。これはマズいと思っているうちに、イサカの姿が大きくなる。次の瞬間、まっすぐにズドンと、ゴールネットの天井めがけて撃ち込まれてしまった。

あれだけ押し込んでいて、一発でこれか。
チャンスの後にはピンチあり。よくある展開ではあるが、ものの見事にやられてしまった。
この一点が、勝負の分かれ道になってしまった。

気を落とすなといくら言葉で鼓舞しても、同点の事実は変わらない。
逃したチャンス、追加点を奪うために走り続け、消耗した体力が徐々に動きを重くしてゆく。

それでも後半、再び山形を押し込み決定機を作る。
ハイプレスからのショートカウンター。見木から小森に繋いで放ったシュートは、今度はバーに嫌われる。こぼれ球を狙った末吉のシュートも枠外。
幾度の決定機も、山形DF陣とGK後藤が身体を張って防いでいく。チャンスを作り、シュートも撃っているが、決めきる事が出来ない。

こういう展開になると、必ず応報がやってくる。
運動量が落ち、逆に山形の強度に後手を踏むシーンが増えてくると、61分、カウンターからデラトーレにボールが渡り、これもイサカの同点弾と同じように、ペナルティエリアに入ったばかりの距離がある位置から、狙いすましてゴールへ流し込まれてしまった。

精度、決定力、といってしまえばそれまでだが。
イサカもデラトーレも、速く、正確な一撃だった。
直後も波状攻撃を食らうも、なんとか凌ぐ。一つ一つの攻撃が重く、一気に劣勢が鮮明に。

ジェフは、流れを変えるべく70分に3枚替え。
矢口→田邉、田口→壱成、呉屋→風間。壱成は今季初出場。
その壱成は、投入直後、末吉からのクロスをエリア内で受け、思い切りシュートを振り抜くもキーパーがブロック。ここも決めきる事が出来ない。運動量を補充され、試合展開は互角に持ち直すもゴールが遠い。

逆に83分、連携のミスからCKを与えてしまい、これをチアゴ・アウベスに決められて1-3。
決めるべきチャンスをゴールに結びつける山形の地力を見せつけられ、突き放されてしまった。その後、スコアを動かすことは出来なかったが、無気力に時間を過ごした訳ではない。最後まで攻め手を伺い続けたものの、山形は隙を見せず、手堅く試合をクローズさせた。

正直、ここまで小林監督の色が出たゲームを観る事が出来るとは思っていなかった。
コーチから監督へ、立場を変えた途端に、劇的にチームを変える事が出来るものだろうかと自分は正直懐疑的だった。変わるにしても時間がかかるだろう、昨年の延長線上にあるようなサッカーから、マイナーチェンジをしていくのではないかと考えていた。

が、目の前で展開されたサッカーは、確かに、「主体的」で「攻撃的」だった。
水を得たように躍動する選手たちの姿を目にして、なるほど、こういうサッカーに共感してチームに残る事を決めたのかと納得せずにはいられなかった。

もちろん、粗さはある。
今日も、山形相手にホームで3失点の敗戦という結果だけなら、今季の昇格争いを見据えた時に、6ポイントゲームを落とした痛い敗戦に間違いない。が、選手たちが見せた躍動感を間近に観たサポーターは、監督からのメッセージを受取り、このサッカーの先にある未来に、大きな期待を抱いたのではないだろうか。

いまはまだ、得られる結果よりも、冒すリスクの大きさの方が優っているのかもしれない。
が、それでも、ジェフはこのサッカーで勝利を目指すのだと強く信じ、後押しする事が、いずれ結果へと繋がるだろう。

次節も舞台はフクアリ。
今日の敗戦を糧にして、ホーム初勝利を。