全力を出し尽くして、なお届かず 2023 J1昇格プレーオフ準決勝・東京ヴェルディ戦

全力を出し尽くして、なお届かず 2023 J1昇格プレーオフ準決勝・東京ヴェルディ戦

2023/11/26(日)15:00
味の素スタジアム
J1昇格プレーオフ準決勝
東京V 2(0-2,1-0)1 千葉

<得点>
34分 東京V 47中原(混戦からミドル)
44分 東京V 7森田(左クロスをヘッド)
78分 千葉  41小森(17福満のパスを自ら持ち込みシュート)

千葉公式
東京V公式
Jリーグ公式

「今度こそは」

2017年以来、6年ぶり5度目のプレーオフ。
15年ぶりのJ1復帰を目指した戦いは、同じオリジナル10、16年ぶりのJ1を目指す3位のヴェルディが相手。現在の境遇は似通っていても、ヴェルディは元王者。J開幕以来30年。こうして両チームが何かを賭けて直接対決する事はなかった。

勝って希望を繋ぐか。
負けて蹴落とされるか。

両クラブが背負っているものを全てぶつけあう、最も重い意味を持つ一戦になった。

前夜から冷たい雨が降り、急に真冬のような寒さになった味スタ。
晩秋を迎え、先月のリーグ戦では緑だった銀杏の木々が、黄色く色づいていた。
朝早くから両チームのサポーターが列をつくり、プレーオフ独特の緊張感ある空気を醸し出す。

順位が下のジェフは勝つしかない。
サポーターもアウェイの制限を受ける。
ただ、レギュレーションの不利が
声援に、手拍子に、身一つで出来る事に、目の前の一戦に集中させてくれた。

小林監督の呼びかけに応じ、アウェイスタンドに集ったジェフサポ。
久しぶりに駆け付けたと言う声もたくさん聞いた。
様々な年代のユニフォームを纏い、かなり年配のサポから、小さな子供までいる。
黄紺のコンフィットシャツを着た子は、きっと親がずっとジェフサポなのだろう。

ホーム・ヴェルディも、当然ながらスタンドを緑で埋め尽くして来た。
飛田給駅前の青赤が、スタジアムに入ると緑一色に変わる。
J開幕後の複雑な歴史と、クラブの危機。
それを乗り越えて来たクラブとサポーター。
思いの強さは変わらない。

両クラブJ2暮らしが長くなり、他のクラブにとっては、「古豪」「過去のクラブ」とも思われているのだろうが。この2クラブが、本気でぶつかり合った時にどんなスタジアムの空気になるか。それを見せつけたい思いもあった。

キックオフ2時間前、13時過ぎにスタメンが報らされる。
ジェフは今季のベストメンバー。
前回対戦時には不在だった、日高、田中の両翼が先発起用され、
サブに米倉も戻って来た。

このメンバーでやってダメならば、力が足りなかったと言うこと。
あとはやるだけ。ジェフサポの多くがそう考えたのではないだろうか。

15:00のキックオフに向けて、徐々にスタジアムの空気が熱を帯びる。
アップに選手が姿を現すと、ひときわ大きな歓声が起こる。
味スタの屋根の不具合で分断されたスタンドも関係なく、ゴール裏、メイン、バックが一体となって選手達を出迎えた。

選手入場前、ヴェルディ側のゴール裏をコレオが彩る。
それが出来ない我々の側は、タオマフを、フラッグを掲げ、黄色く染めたスタンドにアメグレを響かせる。普段通りの試合前のセトリをこなして、15:00、キックオフを迎えた。

序盤、攻勢を仕掛けたのはジェフ。
呉屋が猛然と前からプレスを仕掛け、それを合図に他の選手達も連動してボールを狩りにかかる。先制点が欲しい。それを奪う事が試合全体を優位に運ぶ鍵になる。


(※写真は別のFKのシーン)

3分、左手前からのFKを田口がゴール前に送ると、そのままゴールイン。
しかし、喜びも束の間でオフサイド判定で取り消されてしまう。
その後も前線からのプレスをはめ、サイドに展開しては左の日高とドゥドゥ、右の田中を走らせる。が、前回対戦での2失点に当然対策をして来たのだろう、ドゥドゥはなかなか前を向いてボールを運ぶことが出来ない。

日高、田中の突破からのクロスも、中が堅く、決定的なシーンを作れない。
ヴェルディは防ぐだけでなく、個々の選手の技術が高く、ボールを握られると回収するのに骨が折れる。加えて、ジェフは雨を含んだピッチに何人もの選手が足を滑らせ、その度に掴みかけたテンポを失ってしまう。
それでも、18分。田口の縦パスに抜け出した田中が右を深々と破ると、低いクロスがゴール前でフリーの呉屋に通る。ダイレクトで合わせた呉屋だったが、間合いを詰めたマテウスが弾き、決定機を失ってしまう。

すると、徐々に試合のペースは落ち着きを取り戻したホームチームに移っていった。
ジェフ側が苦しかったのは、センターバックの佐々木、鈴木大輔が相手との競り合いで劣勢を強いられ、前線に起点を作られるようになってしまったこと。
アバウトなボールをセーフティに弾き出せない事で、危ないシーンが増えていった。

試合が動いたのは34分。
ペナルティエリアの近辺でヴェルディにボールを持たれ、狭いエリアでパスを繋がれると、ぬかるんだ芝に足を取られてクリアしきれない。その一瞬の隙。密集の隙間を衝いて、リーグ戦でも決められた中原に先制ゴールを決められてしまう。
夏に町田がバスケス・バイロンをヴェルディから引き抜いた事で、強化部長の江尻さんらが動いてセレッソから期限付きで獲得したラストピース。

その「個」の力を、まざまざと見せつけられてしまった。
この1点は重かった。ゲームプランが崩れた事に動揺したか、明らかにジェフの選手の動きが重くなり、反対にヴェルディのボール回しは易々とプレスをかわして勢いを得たように見えた。

悪い流れを変えられないまま、44分には再び失点。
右サイドを崩され、クロスをゴール前まで攻め上がった森田に頭で合わされて0-2。これで、ジェフが突破するには3点が必要となった。ピッチ上に出来る円陣。状況を整理して、立て直しを図る。スタンドも一瞬静かになったが、まだこれで終わった訳ではない。再び声を大きくする。

動揺は大きく、さらに苦しい時間が続いたが、それ以上の失点は許さず、前半は0-2で終了。
ベンチメンバーが、苦戦した先発組を労い、ウォームアップのリズムを上げた。

苦しい状況だったが、まだ試合は終わっていない。
スタンドを埋めたジェフサポは、再び声を振り絞ってピッチに戻る選手達を後押しする。
頭をよぎったのは、2008年の最終戦。
あの時、0-2だからと諦めたサポはいなかった。
だからこそ、あの結果があった。

後半、呉屋に変えて小森がピッチに入る。
スタンドからは、彼への期待と願いが込められたチャントが響く。
このスタンドに向かって攻めて来いと。

最低でも3点が必要なジェフは、再度、前からのプレスで血路を拓こうとする。
一方のヴェルディは、2点のリードを活かしながら、持ち前の堅実な守備で焦りの見えるジェフの攻撃をいなしながら、カウンターの機会を狙っていく。

押し込みながらも決定機をなかなか作れないジェフ。
時間の進み方が速く感じる。
10分、15分と、スコアは動かない。

62分、ドゥドゥ→米倉、風間→福満。田中は左サイドに回る。
福満は、試合にすぐに入り込んで、小森とボランチの2人の間で、潤滑油のように足りない隙間を埋めていく。米倉も、縦への勝負を何度も仕掛けてクロスを狙っていく。

セットプレー、ロングスロー、手段を尽くすもの、どうしても良い形で崩せない。
時間は残り15分を切り、いよいよ瀬戸際。むしろこういうドン詰まりの時こそ、目の前の試合への集中が高まっていくのは何故だろうか。

スタジアムの空気が混沌を極めて行く中、最後の交代。
76分、田中→椿、日高→メンデス。
佐々木が左SBへポジションを変える。

その直後だった。
78分、縦パスを福満がフリックし、それを受けた小森が、マテウスの手を弾いて追撃のゴールを奪う。
重なるのは、同じようにキーパーの手を弾いて奪った新居辰基のゴール。

ボールをセンターサークルに戻し、次の1点を目指す。

残り15分。最後の攻勢。
メイン、バックも巻き込んだ「WIN BY ALL!」の絶叫の中、
椿、米倉、福満、小森とゴールに迫るものの、固められたゴールを奪う事が出来ない。
ヴェルディのミスのないプレーの一つ一つが、刻々と時間を進めていく。
鈴木大輔は前線に上がったままになった。

ベンチは全員が前に出て、ピッチの中に声をかけている。
最後の最後まで、その場にいた全員が、全力を尽くしたが、それでもなお、ゴールは、勝利は遠かった。

やがて、試合終了の笛が鳴らされ、崩れ落ちる選手達の向こう側から、ヴェルディの歓声が聴こえ、自分たちが叫んでいた声援以外の音が戻って来た。

また、壁を越える事は出来なかったのだなと。

なかなか起き上がれない選手、顔を押さえる選手、彼らを、選手、コーチ、監督、スタッフが労い、やがてバックスタンドに挨拶を終えたチームの皆が、ゴール裏へやってきた。いつのまにか、この日メンバー入りしていなかった選手達も顔を揃えている。

ああ、このチームが終わってしまうのか。
そう考えてしまうと、途轍もない喪失感があった。
一人一人の顔を見ていたはずなのだが、ぼんやりとしてしまって、記憶があまりない。

コールリーダーの合図で、「PRIDE」が唄われた。
「俺たちの誇り ジェフユナイテッド 何も恐れずに 共に戦おう」と。
及ばなかったが、持てるものは全部出し尽くした。そういう試合だった。

退団が決まっている福満にコールが送られ、彼らが見えなくなるまで唄は続いた。

全てが終わり、周りを見渡すと、
椅子に座って動けないサポ、黙々と幕を片付けるサポ、泣きはらすサポ、お疲れさんと声を掛け合うサポ、抱き合って慰め合うサポ、様々だった。
顔馴染みのチームスタッフも、あちこちでサポに声をかけていた。

こちらも、お疲れ様、ありがとう、また来季、と声をかける。

誰しもが、このチームで勝ちたかった。
あと一試合戦いたかった。
そしてJ1に復帰したかった。

叶わなかった勝利を、今日と言う日を、それぞれに胸に刻んでいるようだった。

 

思い返せば、今シーズン。
序盤戦は良いサッカーをしながらもゴールが奪えず、降格圏まで順位を落とすなど苦しい状況だった。フクアリの観客も5,000人程度しか入らず、クラブの将来を危うく考えた事もあった。が、そういう外野の心配をよそに、選手、監督はブレる事無くチームを作り上げ、自らのプレーで勝利を積み上げ、観客を呼び戻し、プレーオフまで連れていってくれた。

波乱万丈。久しぶりに楽しいシーズンになった。
監督が掲げた一体感、その中の一人としてジェフを応援できたことが。

最後は、ベストメンバーで全力を尽くした上での敗戦。
ジェフは、ジェフのサッカーをやり抜いたけれども、それでもなお、届かなかった。
ならば、受け容れるしかない。
ヴェルディが強かったということ。

シーズンを通して安定した戦いを見せた彼ら。
シーズン途中から、きっかけを掴んだジェフ。
プレーオフは所詮、敗者復活戦。
町田、磐田のようにシーズン中に勝ち点を積み重ねればよかっただけのこと。
ジェフは6位、ヴェルディは3位。それだけの差はあったと再確認出来た。

翌日に続投が発表された小林監督は、その差を「個」の強さだと言った。
組織をさらに鍛え、そこにプラスアルファ「個」の強さを加える。
ピッチ内とは別の戦いが、既に始まっている。
来季は開幕から決勝戦。そこに戦力を整え、再び挑戦者として挑んで欲しい。

我々の一体感をもってしても、なお、J1には届かなかった。何も成し得なかった。
この悔しさを忘れる事無く、来季はさらに一体になって勝利を積み重ねなければ。

ジェフに関わる全ての皆さん、本当に一年間お疲れ様でした。
ありがとうございました。