「ジェフとは何か」答えを探した17年 2025 J1昇格PO決勝・ 徳島ヴォルティス戦
- 2025.12.30
- 雑感
- J1昇格プレーオフ, カルリーニョス・ジュニオ, 徳島ヴォルティス, 髙橋壱晟
2025/12/13(土)13:05
フクダ電子アリーナ
J1昇格プレーオフ決勝
千葉 1(0-0,1-0)0 徳島
<得点>
69分 千葉 29カルリーニョス・ジュニオ(2髙橋の右クロスをヘディングシュート)
大宮戦の劇的な勝利から6日。
正直、あの試合で昇格出来ていたならと、この一週間考えていた。
胃が痛い。胸が苦しい。あと一試合、この一試合、勝たなければ何も成し遂げられない。
奇跡など何度も起こるものではない。
今季、開幕戦から、いや、この3年間を通して作り上げてきた、目の前の一戦に何としても勝ち切るチーム、それが出来るかが今日の全てだ。

争奪戦を経てチケットを手に入れたサポたち。
蘇我駅からフクアリへ向かうサポが、大宮戦と比べても圧倒的に多い。
居てもたってもいられない空気が朝の蘇我の空気を熱くしていた。

心配された雨は降らず、試合の間は天気がもってくれた。
待ちわびた開門。横断幕を張り、バス待ちに参加し、サマナラを食し、いつものルーチンで試合に臨む。

スタメンは前節と変わらず。
サブには、吉田に代えて椿が復帰。
おそらく、無理くりのメンバー入りだろう。
徳島は守備が固い。彼の力が必要になる厳しい展開にならなければ良いが。

対する徳島はトニー・アンデルソン、ルーカス・バルセロス、渡が前線を構成し、少ないチャンスでも決めきる一刺しがある。
リーグ最少失点を誇る守備陣は、守護神・田中。DFラインには昨年ジェフに在籍した山越がメンバーに入った。一年前とは逆の立場で見るフクアリ。夏の対戦、やむを得ない状況だったとは言えOG。期するものは当然あるだろう。


試合前、この日もコレオがスタンドを埋めつくす。
前日は強風で準備は容易でなかったはずだ。労を惜しまず準備をするサポーターの存在があってはじめて、このスタンドの空気が作られている。並大抵の事ではない。
成績が落ち込み、クラブの考えが見えず、観客も落ち込んだ数年前、こういう光景を作るのは、もう難しいのではないかと諦めた時期が私にはあった。辛抱して応援を続けたサポ、新しくその輪に加わったサポに感謝し、私の考えが誤っていた事を謝罪します。
そして、徳島・増田監督は、大宮戦の逆転を生み出したこのスタンドを恐れていた。
試合に臨むにあたって、大音量でジェフの声援を流して練習していたという。
それだけに、エンドも当然のように入れ替えてきた。
が、もはやそんな事はジェフサポにとってはどうでもよくなっていた。
南側も含め全周囲が黄色く埋まったフクアリ。リーグ戦の最終節・今治戦でもエンドチェンジなど意に介さず、押し切ったのだから。目の前の一戦に集中する。とにかく、選手たちのあと一歩が出せるように声援の限りを尽くす。一人一人がやるべきことをやる。誰が何を言わずとも、それが出来るスタンドになっていた。
アメグレ、WIN BY ALL!コール、アッコちゃん。
これが最後。気持ちを見せるのは今だ。

キックオフと同時に、激しい主導権争い。
ほどなく、ジェフがボールを握り始める。
前線のカルリーニョスがプレスでスイッチを入れ、両翼の杉山、イサカを走らせ、突破口を開きにかかる。
5分、杉山がライン際で相手を交わして、グラウンダーのアーリークロスをゴール前に送る。カルリーニョスがつま先で合わせるも、ミートしきれず。
一方の徳島もすぐ後の6分にトニー・アンデルソンがロングシュートを見舞う。
打たれれば打ち返す。7分。ハイプレスでボールを奪い、カットしたボールをエドゥアルド→カルリーニョスと繋いで落とし、石川がエリア内でシュートを放つも枠外。
一進一退。悪くない試合の入り。
19分にも細かい繋ぎからカルリーニョスが反転し、強引なミドル。
GK田中がしっかりセーブし、詰めさせてはくれない。
押し気味ながらも、最後の最後を締められてゴールを割れない。
徳島もまた、この一年のリーグ戦で培った普段着のサッカー。固い。
互いに決め手を欠き、スコアは動かない。

前半が終わる。
他のチームの試合結果を一切考えなくていいプレーオフの決勝。
普段ならスマホを片手に、他会場を気にしている姿がない。何ともいえない「ざわつき」がフクアリを包んでいた。出番を待ち、ハーフタイムに身体を温める控えの選手たちも、普段以上に熱が入っている。
後半のピッチに現れた選手たちを、再びラスタカラーのコレオとアメグレが出迎える。
泣いても笑っても、残り45分。
45分後に、どんな景色を見ているのだろうか。
選手交代は無く、後半が始まる。
勝たなくてはならない徳島は、当然前への圧力を強めてくる。
だからこそ隙が生まれるとも言えるのだが、その圧力をまともに受けては勝機を掴めない。
互いにギリギリのプレーをする中で、徳島の主将・渡が、競り合いの中で足を捻り、涙を流しながらピッチを後にする。その無念に突き動かされたか、徳島は乾坤一擲のカウンターでジェフのゴールに迫る。
58分、カルリーニョス・ジュニオの落としが強く、徳島にボールが流れる。カウンター。
ルーカス・バルセロスの浮かせたクロスに、トニー・アンデルソンがダイレクトで合わせる。若原の伸ばした手も届かないが、シュートはバーを叩き、難を逃れる。
66分にもカウンターから、左クロス。トニー・アンデルソンのダイレクトシュート。
ほんのわずかの差が勝敗の綾を紡いでいく。
拮抗した展開だったが、徳島の攻勢も目立ち、試合が動く気配を見せていたこの時間帯に、小林監督が手を打つ。
大宮戦に続いて、姫野を投入。大宮戦の「あのゴール」が彼の投入の意味を全く変えた。
彼は何かをやる。必ずやってくれる。期待感がフクアリを包む。
同時に徳島にとっては、警戒しなければならない選手、警戒しなければならない空気の変化だった。

時間は66分。
姫野投入と共に、ここが勝負どころと一段と声援が増した。
そして、姫野投入後すぐの69分。
左サイドでのスローインを受けた石川が相手の密集した守備をかいくぐって逆サイドの大きなスペースにボールを送る。そこには壱晟。フリーでボールを受けて持ち上がると、右のイサカには出さずに、狙い澄ました渾身のクロスをゴール前に。
これにカルリーニョス・ジュニオが山越と競り合い、競り勝って、強烈なヘディングシュートをゴールのスミに突き刺す。
一瞬、何かが爆発したような歓声がフクアリに響き渡り、スタンドを揺らす。この一点がどういう意味を持つか。それを誰しもが理解している。もう、逃がさない。このまま絶対に。だが、まだ試合は終わっていない。

そこから先は、この三年間の集大成のような戦いぶりだった。
徳島の必死の攻勢を受けながらも、こちらも決して緩む事はなく、食らいつき、跳ね返し、奪い返して攻める。
81分、カルリーニョス・ジュニオ、田口に代えて、呉屋と品田を投入。
前線からのプレスで襲い掛かる呉屋。
飄々としたプレーで徳島をいなす品田。
86分、最終ラインの組み立てから壱晟→イサカと繋いで右をこじ開け、グラウンダーのクロス。フリーの姫野がダイレクトでシュートを放つも、僅かに枠外。再びフクアリが大きくどよめく。
ATに入り、92分には、イサカ、日高に代えて、前と鳥海を投入。
5バックで試合を締めにかかる。
徳島とて、最後まで諦める事無く猛攻を見せるが、その猛攻の最中、ゴール前の密集でふわりとヘッドでボールを若原に戻す品田は本当に肝が座っている。あれは、攻める側からしたら、頭を掻きむしりたくなるような、絶望すら感じる「戻し」だ。
ベンチ前では、ヨネを始め、選手・スタッフが一つ一つのプレーに全身で反応している。
スタンドも、もう声援でありながら、祈りを込めた絶叫だった。
「行け」「走れ」「追え」「当たれ」「止めろ」「クリアだ」「潰せ」「頑張れ」「頼む」・・・。声にならない声が、何度も繰り返される最後の「WIN BY ALL!」声援に混じってフクアリに響いていた。
長く長く感じたAT。そして、最後の笛が鳴った。
皆が拳を強く握り、両腕を突き上げ歓声を上げる。

目の前で地面に突っ伏す鳥海の背中が見えた。跪き、肩を抱き合う大輔と呉屋が見えた。ベンチから飛び出してくる選手たちが見えた。
ピッチで、ベンチで崩れ落ち、今度こそ悔しさではない涙に暮れる選手たちの姿と同様に、スタンドもまた、ある人は黙って涙を流し、タオマフで顔を覆って嗚咽し、ある人は笑顔で手を取り合い、またある人は魂が抜けたように茫然とこの光景を見つめていた。

自分も、しばらくぼうっとした後、握りしめた拳を解いて周囲の人と握手を交わした。
力強く、あるいはそっと手を取って。
長かった。本当に、本当に長かった。
この光景を見るために、J1に戻るために、いったいどれだけの月日が経ったのだろう。
多くの仲間が増えた一方、この光景を見る事が叶わなかった仲間や関係者もいる。それを思うと、感極まってしまい、それ以上何も考えられず、ただただ目の前に広がる光景を見やっていた。
ほどなく、「WIN BY ALL!」のコールが響く。
2008年秋、J1に生き残る為に初めてコールされた「WIN BY ALL!」。
ようやく、まだスタートラインとすら言えないけれども、戻って来た。J1へ。
叫びつつ、噛みしめていた。
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昇格と言う目標を成し遂げた直後、ピッチでインタビューを受けた小林監督の言葉は、熱を帯びつつも、冷静で現実的だった。
「来年J1へ行くんですよね。そんな簡単じゃないですよね、おそらく。難しい時間あると思うんです。でもそんな時に本当にクラブをそのまま愛してもらえますか?」
「自分たちの目標は今後何ですか?っていうところがしっかりと皆さんと共有されて。来年以降、それに向かって、しっかりと積み上げていくと。そういうことがクラブにとってめちゃくちゃ大事なんだと思います。」
ハッとさせられた。
重い言葉だった。
思い返せば2008年。
奇跡の残留と言われた試合の後、我々はあまりにも劇的な勝利に酔ってしまい、自らを省みる事を怠ってしまった。その結果が2009年の降格だった。
そう。一つの目標を達成すれば、次の新しい目標が生まれる。
これが終わりではないと、この試合を観ていたジェフに関わる全ての人達が、小林監督の言葉に気持ちを新たにし、そして奮い立ったに違いない。
ジェフを応援している限り、これから先も苦しい事はたくさんあるだろう。
けれども、決して諦めずに努力し続ければ、今年のようなシーズン、今日のような瞬間もある。
皆が一つの目標を成し遂げ共に歓喜できる瞬間が。


胴上げされ、そして全ての感情を解き放つかのように渾身のジェフ三唱でガッツポーズを突き上げ叫んだ小林監督。スタンドもまた、あらん限りのジェフ三唱で応えた。
こんなにも思い切り感情をさらけ出す事なんて人生においてそうはない。
ありがとう。小林監督。
この景色を作ったのは貴方だ。
そして、この場にいた人も、それが叶わなかった人も、ジェフに関わる人たちみんな。
誰一人が欠けても、今日の勝利は無かっただろう。
長い、長い、17年と言う時間は、
一つの勝利、一つの勝ち点の重みを知り、
ジェフに関わる皆が、どうすれば心一つになれるのか。
ジェフと言うクラブは何を大切にするクラブなのか。
皆にとって、ジェフとはどういう存在なのか。
一人一人の心に問いかけ、
その答えを探すための時間だったのかも知れない。
最後に、これが通過点だという事を忘れないように。
オシム監督の言葉を改めて心に刻んでおきたい。
Yesterday is Yesterday.Tomorrow is important.
(昨日は昨日。大事なのは明日だ。)
𝐖𝐞𝐥𝐜𝐨𝐦𝐞 𝐛𝐚𝐜𝐤 𝐭𝐨 𝐉𝟏
明治安田J1昇格プレーオフ2025
優勝 ジェフユナイテッド千葉@jef_united#Jリーグ pic.twitter.com/HtVKKDzIx2— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) December 13, 2025
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