尹晶煥監督の遺産と小林監督のアップデート 2023 J2第10節・東京ヴェルディ戦

尹晶煥監督の遺産と小林監督のアップデート 2023 J2第10節・東京ヴェルディ戦

2023/4/16(日)14:00
フクダ電子アリーナ
J2第10節
千葉 1(1-0,0-0)0 東京V

<得点>
29分 千葉 37ブワニカ(13鈴木大輔のカット→10見木のドリブル突破からシュート→キーパーの弾いたこぼれ球を37ブワニカが押し込む)

千葉公式
東京V公式
Jリーグ公式

厳しい状況に変わりは無いものの、大きな一勝。

水曜日の藤枝での完敗により順位は降格圏へ。
が、もう這い上がるしかないと言う覚悟が、自信を失っていたチームに結束をもたらし、総力戦での勝利へと繋がった。

三連戦の最終戦。
対戦相手は3位につけるヴェルディ。
今年は開幕から好調だ。

長年対戦しているだけに、彼らの過去の苦闘も知っている。
それだけに、今年こそと言う思いは一際強いだろう。
調子の上がらないジェフに躓く訳にはいかないと、キックオフ前からカタマリ感のある声援でピリピリとした空気を作り出していた。

ジェフのスタメンはコンディションを考慮し前節から4人変更。
ブワニカ、椿、福満、西久保が入り、呉屋、風間、末吉、松田が外れた。

システムは時間帯によって異なる。
初期配置は新井一耀を3バックの真ん中に置く3-6-1、あるいは3-5-2。
見木がシャドー、あるいは2トップの一角。
より攻撃に専念出来るポジションとなった。

キックオフと共に圧力をかけたのはジェフ。
が、小森と呉屋が先発に居ない影響もあるのだろう。
これまでとは異なり、相手を深追いするのではなく、後ろのリスクも考慮し、陣形を維持しながら、相手が攻め込んで来れば迎撃に出る守備。

ヴェルディのプレッシャーは想像していたほど厳しくない。
前節・藤枝のようなアップテンポではないので、持たれても怖さはあまりない。
首尾よくマイボールに取り戻せば、今日は後ろから繋ぐだけではなく、ターゲットのブワニカを目指して蹴り込んで陣地を回復する選択が出来る。

ロングボールと、サイドからの崩しを交えて、セットプレーを奪い、試合序盤からCK、あるいは西久保のロングスローを武器にゴールに迫る。

最初の決定機は7分。
前線からの戻しを受けた小林が再び浮き球をゴール前に送り込む。
これにブワニカが合わせてシュートを放つも、キーパーが身体を広げて叩き落とす。
直後の見木のシュートもブロックされるが、良い形をまず一つ作った。

17分には、見木がボールを受け、ミドルを放つも枠外。
が、攻撃への直接的な関与が明らかに多い。
彼がこの位置にいる意味が出始めていた。

決定機自体は多くないものの、ジェフが主導権を握りつつ迎えた28分。
待望の先制点が生まれる。
鈴木大輔が奪ったボールを見木に繋ぎ、そのままドリブルで持ち上がってシュート。キーパー=マテウスが弾いたところへブワニカが詰め、ゴールに流し込んだ。

カウンターからの一発。チームとしても狙い通り。
とりわけ、見木が「個」の力で縦に一直線、ドリブルでシュートまで持ち込んだからこそ生まれたゴールだった。煽るブワニカにスタンドが応える。

先制され、前に出るヴェルディ。ここで受けに回ったジェフに変化があった。
システムがほぼ明確に4-5-1あるいは4-4-2となり、4-4、2列のブロックがゴール前を固める。尹晶煥体制で見慣れた、守備固めの陣形。

放り込むスペースも無く、窮屈になったピッチを、ヴェルディが空気を求めるようにボールを布陣の外側で回し続ける。「持たれている」のではない、「持たせている」。この展開が続くなら、時間の経過はジェフの武器になる。
が、簡単にそうならないのが現状か。40分、CKのチャンスからカウンターを許し、バスケス・バイロンに裏抜けされ、新井章太と1対1を作られる。これを決められてしまうと「またか」となってしまう。しかし、放たれたシュートは横っ飛びで弾き出し、事なきを得る。

前半唯一の被決定機を守り切り、1-0のまま前半を終える事が出来た。

後半から、足を痛めた福満に代わって田中が右に。
試合の流れは大きく変わらない。
ブロックを作り、ヴェルディに持たせ、ボールを奪えばカウンター。

昨年までは、守備固めに入ると、ボールを奪っても位置が低く、切り替えも遅いので敵は帰陣済。なかなかチャンスらしいチャンスを作る事が出来なかった。

が、恐らくは本来目指している今季のサッカー=ハイプレスからショートカウンターの練習で、ドリブルで持ち上げる速攻の意識付け、縦一本で裏を狙う意識付けが出来ていたからだろう、加えて椿、田中の新戦力。
この後半のジェフはブロックを固めながらも相手の脅威になり得るカウンターの刃を残していた。

65分には西久保が痛んで、松田に交代。
さらに72分にはブワニカに代えて呉屋が前線へ入る。
季節外れの暑さと日差し。連戦による疲労を考慮し、両軍ともにメンバーを入れ替えながら終盤戦へ。

76分には呉屋がボールを奪い、右を並走する見木へ。
見木に「決めさせたい」気持ちが伝わって来るようなパスだったものの、シュートはブロックされ、追加点を奪うことが出来ない。

その後も、FKから鈴木大輔→新井一耀と頭で繋いでシュートを放つなど、チャンスを作る。
一方的に攻撃を受けるような展開に陥る事はなかった。決定機を迎えそうな場面では、身体を投げ出して有効なシュートを撃たせない。

声援も一層大きくなる中、残り時間が少なくなるにつれ、時間を使うプレーも徹底。ATには矢口と風間を投入して交代枠を使い切り、時間をすり潰して勝利に拘った。

そして。タイムアップ。

10試合目にして、今季初のフクアリでの勝利。
今季2勝目をもぎ取ったのだった。

ピッチに倒れる選手たち。
スタンドも、安堵の笑顔が溢れた。
本当にようやくだった。

この試合の勝因はいくつか挙げられるが、

一つには攻撃面で見木を攻撃に専念させた事だろう。
まだゴールこそ無いものの、彼が攻撃を牽引している事に変わりはない。
が、往々にして攻撃以外の役割も多く背負ってしまっている。

彼自身も葛藤があっただろう中、攻撃に専念出来る役割が与えられた。
それに応えるように、今日の見木はフィニッシュに拘ったプレーに徹した。
そして決勝点に繋がるシュートを放って結果を出した。

ブワニカ(呉屋)、椿、福満(田中)、周りを固める選手たちも見木に引っ張られ、それぞれの持ち味を発揮していた。

そしてもう一つは守備面でヴェルディに前を向いた決定的なシュートをほぼ撃たせ無かったこと。これまで、相手の速攻から、ゴラッソをいくつも叩きこまれて来たけれども、それは「撃たせてしまっている」からこそ生まれたもの。
今日は、そもそも「撃たせなかった」。ヴェルディの有効打は、バスケス・バイロンがカウンターから撃った一本くらいではなかったろうか。

撃たせなかったのは、一つには局面で身体を張り「きる」事が出来た事と、
前述したように、リードしてからは尹晶煥監督時代を彷彿とさせるブロックを固めた守備で、ヴェルディが攻撃に使えるスペースを潰したからだった。

退き過ぎて波状攻撃を食らうような事もなく、カウンターの目を残しつつバランス崩さずに逃げ切りが出来た。
前節までは、リードする場面がほとんど無く、出来なかった試合展開がようやく出来た。

小林監督としては、理想と現実の狭間で葛藤があったかも知れないけれども、勝利を掴むために現実的なオプションを試合の中で使い分けた事は、今後の武器になる事だろう。

ようやく一つ勝ったものの、順位は20位。依然として厳しい事は変わらない。
試合後、twitterでブワニカが書いていたように「次が大事」だ。

次節は、アウェイ熊本。フクアリの声援は無い。
それでも、現地組の後ろには、多くのジェフサポが固唾を飲んで見守っている事を忘れず、自信を持ってプレーして欲しい。さあ、ここからだ。