サッカーのある日常に思いを込めて 第32節 vs水戸ホーリーホック ○2-1

サッカーのある日常に思いを込めて 第32節 vs水戸ホーリーホック ○2-1

2019/09/14(土)18:00
フクダ電子アリーナ
J2第32節
千葉 2(1-1,1-0)1 水戸

<得点>
31分 水戸 8前
39分 千葉 9クレーベ
30分 千葉 9クレーベ(PK)

ジェフ公式
Jリーグ公式

リードを奪い、時間は後半30分を過ぎた。
まだ脚は動いていた。
鬼気迫る顔で、勇人がボールを刈り取り、
身体を張っている。
疲れはある。
しかし、交代枠は残り3枚ある。
 
いける。
必ず勝ちきらなくてはならない。
自然と声が大きくなった。
 
アディショナルタイムは6分。
だが、時計は97分を過ぎても、まだ止まらなかった。
 
最後の水戸の攻勢を凌ぎ、主審が両手を上げ、笛を吹く。
その瞬間、久々にフクアリに歓声が響き渡った。
 
ただの一勝ではなかった。
 
長い一週間。
長い一ヶ月。
 
サッカーのある日常が、幸せなものであること、
一つの勝利がこれほど困難で、重いものであること、
改めて噛み締めずにはいられなかった。
 
 
台風15号。
今現在も千葉県内各地をはじめ、関東各地や、島嶼部に、全容の分からない甚大な被害を及ぼしている。
 
ユナパも被害を受け、ジェフサポも数多く被災している。
その最中でも試合は止まる事なくやってくる。
選手も、試合に集中する事が難しかったろう。
江尻監督は、試合前日の昨日、いてもたってもいられず、巻と共に被災地へ足を運び、この試合を迎えた。
フクアリに来たくても、来られなかったサポも居る。
それぞれが、いまやるべき事を考え、臨んだ試合だった。
 
スタメン。
船山を外す荒療治。
クレーべの1トップ。その下には浩平。
キーパーには優也が久しぶりに起用された。
江尻監督が選んだ、戦えるメンバーだった。
降格を免れるには、勝つしかない。

 
一方、水戸はこの試合を3位で迎えた。
自動昇格圏浮上へ、18位に低迷するジェフには、是が非でも勝たなくてはならない。

 
キックオフから激しい試合展開になった。
まず3分。ジェフは左から為田が下平とのワンツーで切り崩すと、中にフェイントを挟みながら切れ込む。鋭いシュートを放つも、キーパー松井のセーブに遭う。
水戸も6分、19小川が優也と1対1になりかけるもシュートを打ち切れず。
ジェフは、ここ数試合よりも、一歩目の出足が早い。
球際で競る事が出来ていて、届くか、届かないかのボールを触ることが出来ている。

中でも勇人。全盛期を髣髴とさせる動きで、フィールドの広い範囲をカバーし、ボールを刈り取る。

そして、刈り取ると両翼から崩しにかかる。
左は、為田と下平の二枚刃。
特に為田が普段以上に気持ちが乗りに乗っている。

右は、茶島が中に絞り、右SBのヨネが上がるスペースが、おあつらえ向きに空けられている。
左で崩していたかと思うと、一気に右へ切り替える。
フィールドを広く使い、攻撃面の良さは試合序盤から発揮できていた。

 
対する水戸。
対戦するたびに、機能性が洗練されていく。
押し込まれていても、システマティックで、切り替えが早い。
少ない手数で、一気にゴール前まで持ち込んで決定機を作り上げる。

前線の小川も技術があって厄介な選手だが、右の福満、左の黒川も機を見て中に絞りながら攻撃に厚みを加えてくる。ボランチの前選手をはじめ、後方からの押し上げも抜かりが無く、連動性のある攻撃は、人数が多いような錯覚を受ける。

「気持ち」が前面のジェフと、積み上げてきた「チーム力」の水戸。
試合展開も、それを表す戦いになった。

手数を増やし、徐々に水戸を押し込むジェフは、25分過ぎから決定機を立て続けに作る。

28分、左サイドをまた為田が切り崩す。カットインしながら右足で放ったシュートは、右ポストを叩く。
直後、29分にも左クロスをクレーベの背後から飛び込んだ茶島がヘッド。
かろうじて、松井がはじく。立て続けに決定機。
さらに、30分にも、浩平→為田→下平と繋いで左クロス。クレーベがスルーしたところに、フリーで茶島。右足でシュートを放つも、当たり損ねてキーパーに難無くキャッチされる。

しかし、先制点の機運が高まってきたところで、水戸の速攻がジェフを襲った。

31分、ジェフの右サイドを水戸がカウンターで攻略する。
増嶋がついているものの、他の選手たちは、ボールにばかり固まってしまって、後方から攻め上がってくる水戸の選手をカバーできていない。増嶋の足が届かないところへ折り返された時にはもう手遅れで。一直線に突っ込んできた前選手に豪快な一撃をフリーで叩き込まれていた。
ボールしか見ていないジェフと、走りこむ選手たちを囮にして、フィニッシュへの流れを描いていた水戸。それぞれの完成度の違いが、如実に表れたシーンだった。

ただし、今日のジェフは先制されても、下を向かなかった。
ホームのジェフが押し込み、アウェイの水戸が受け止める。

そして、唐突に「そのゴール」が決まった。
38分、新井がヘッドで前にボールを送ると、茶島がクレーベに預ける。
トラップしたボールが、ピッチに落ちる前にシュートを叩きつけると、ボールは、ゴールのはるか上に外れる軌道から、急激にドロップしてゴールネットに突き刺さった。一瞬、フクアリが言葉を失うほどの強烈な「ドライブシュート」!!

 
ベンチの船山のところまで駆け寄って、胸を付き合わせるパフォーマンス。
規格外の一撃で、空気は、一気にジェフ側に引き寄せられた。
小川の突破には優也の好セーブも飛び出し、前半は1-1で終える。

エンドが変わって後半。
勝たなくてはならない水戸は、開始0分から決定機を作って、再びリードを奪いにかかってきた。

ジェフは、前半のようには前に出られなくなるが、57分。
クレーベが、右クロスに合わせようとするところ、マークについていたンドカ・ボニフェイスに倒され、PKを得る。これをキーパーの挙動を読みきったコロコロ弾で流し込んで、リードを奪う。

しかし、ここからが、長かった。
時折、左の為田を突破口にしてチャンスを作るものの、手元のメモには水戸の攻撃ばかりが増えていく。
両翼からのクロス、崩しきれなければミドル。
水戸は、しっかりフィニッシュまで攻めきってくる。

対するジェフは、勇人を中心に、アンドリュー、浩平が、中盤でしっかりフィルタになる事が出来ていた。水戸を完全に自由にはさせない。あまり「気持ち」、「気持ち」と言うのも良くないけれども、守備のやり方自体は前節までと同じ問題を抱えながらも、ボールを持つ選手への寄せが厳しい。容易には前を向かせない。

膠着状態のまま時間が過ぎ、

水戸・長谷部監督は、木村、茂木、レレウと、次々にカードを切って打開を図る。

普段のゲームだったら、後半15分を過ぎれば、足が完全に止まってしまうジェフだが、この日は崩れない。
涼しくなって来た気候のおかげもあるだろう。
この試合に賭ける気持ち、スタンドからの声援の後押しもあったろう。
後半30分を過ぎても、まだ足はなんとか動いている状態だった。
しかし、浩平をはじめ、限界は近くなっていた。


江尻監督は、交代をギリギリまで引っ張る。
86分に茶島に代えてゲリア。
89分には、浩平に代えて船山を投入。

アディショナルタイムは6分、、、6分!?

最後の1枚、クレーベに代えて寿人。
勇人と寿人が左サイドでパスをかわし、時間を削りにかかる。
とにかく、勝ち点3が欲しい。
そして、すんでのところで、落してきた勝ち点があまりにも多い。
しかし、今日は。
選手達も、江尻監督も、必死に声をかけ、一つ一つのプレーを確実に、ミスの無いよう、集中して戦っていた。

アディショナルタイムが7分を過ぎ、まだか、まだかと誰もが思う中、ようやく笛が吹かれる。
その瞬間、ピッチに選手達は倒れこみ、フクアリは、本当に久しぶりの歓声に包まれた。

そして、試合が終わった後は、普段とは違う、特別な時間となった。
両チームの選手がピッチから去らない。
しばらくすると、両チームの選手が、「がんばろう千葉」のメッセージを掲げ、場内を一周して被災地への支援を呼びかけた。
改めてこの試合に来られなかったサポ、今も被害に苦しんでいるホームタウン、地元千葉、いや今回の台風で被害を受けた人たちへの思いを伝える為に。スタンドは、アメグレ。試合中や、試合後のアメグレは、特別な意味を持つ。ナビスコ決勝の延長戦の前、奇跡的に残留した試合後。

水戸は、試合前から「千葉県の一日でも早い復興をお祈りします」と横断幕を掲げてくれた。
試合後も、昇格を争う大切な試合で敗れた後であったにも関わらず、セレモニーを受け容れてくれた。
心から、水戸ホーリーホック関係者の皆様には感謝したい。
ありがとうございました。


改めて、試合を振り返ると、戦い方自体は、ここ数試合と大きく変わったようには見えなかった。
失点を喰らったシーンのように、守備はボールや近くの選手しか見えていないし、容易にディフェンスラインの裏を狙われてしまうような隙もあった。

が、何が違ったか。
それはやはり「気持ち」だったと思う。

いくら戦術を練りこんでも、そこに魂が乗らなければ、戦いには勝てない。
勇人や、浩平のプレーは、年齢を感じさせないような運動量と激しさがあったし、為田の突破、茶島の飛び込みも、普段だったら安全策を選んで戻してしまうような場面で、迷い無くチャレンジし、五分五分のボールには身体ごと当たって、相手を潰す迫力があった。

そして、最後のフィニッシュは、「戦術クレーベ」。
水戸の「組織」を、クレーベの「個の力」で砕いてしまった。

「気持ち」と「個の力」が勝因だった。

失われていた自信を、やらなければならないと言う覚悟が上回って、プレーに責任感が戻っていた。
一つ一つのプレーの厳しさ、集中力が、勝利に繋がった。
そして、これは、前々から江尻監督が選手に求めていた姿勢だった。

自信を持ち、プレーに集中できれば、戦術の整備が不十分でも、ここまで戦える。
ポテンシャルの大きさを見せつつも、なら、なぜ今までの試合で出来なかったとも思う。
「気持ち」だけがその差なら、常に今日以上の戦いが出来るようにならなくてはならない。

状況は、まだまだ厳しい。
「気持ち」でも「個の力」でも、そして次は「組織」でも勝てるよう、
次の勝利に向けて、練りこんでいって欲しい。
フクアリには、やはり歓喜の声が良く似合う。

第32節終了 17位
(8勝10分14敗 勝ち点34 得点38 失点50 得失差-12) 
残り10試合 J2順位表